135話
新年祝賀の会場は有耶無耶のうちに解散。
魔法による暗殺未遂と地鳴り。
夜空を舐める炎と、月明りにたなびく湯煙。
殺気だった護衛の者達の厳戒警備が敷かれる。
当然、安全が確認できないと群衆を追い払い、セルジオ家の面々はそのまま執務室で緊急会議となる。
追い払われた群衆の中の商人や貴族は、魔法を打ち消したセルジオの行為?と、温泉が湧いた件、そして新たなダンジョンの入り口が開いたという情報を早馬で本拠地に知らせ、セルジオ領周辺各地に風の様に広まってゆく。
その頃、そんなセルジオの事を知らない、彼を心配する少女が遠い王国の空の下別の騒ぎを起こそうとしていた。
・・・・
「姫様やめましょう!」
「お考え直し下さい!」
小声でサラを諫める侍女の声がする。
「いやです!」
サラは何故かセルジオから貸し与えられた衣服に身を包み、王女の部屋から忍び出そうとしている。
「そんな恰好では直ぐに見つかってしまいます!」
「じゃぁ、どうすればいいの?」
サラは懇願するような目で侍女に詰め寄る。
「それは・・・・」
当然、代案が有ったとしてもいえるはずはない。
「この上からドレスを着て、祝賀の席から抜け出そう思うの・・・・」
サラは、祝賀会の途中で気分が悪いと抜け出すつもりなのだ。
「お父様も酷いのです。
国を出る前に、『セルジオ様の側を片時も離れぬように』などと言っておいて・・・・
ちょっとビックリしたからって、あんな危ない場所には置いておけないなんて仰るのよ?
・・・・それに爺も、わたしがちょっと・・・・
(ゴニョゴニョ・・・・思い出して悶えたり)狼狽したくらいで、彼の者は危険だというのです!
もう信じられません!!
だから、セルジオ様の下に馳せ参じて私が守って差し上げないと!!
(ゴニョゴニョ・・・・頭を撫でて、いただけるのは)私がお側に居ないとダメなのです!!」
時々赤面しながらゴニョゴニョ、モジモジする姫様に侍女達も、『なんだかもう・・・・』といった、呆れ顔であった。
・・・・
ゴート王国の都は、雪に覆われていた。
都でも、新年初日の為営業している店自体が殆どないのだが、例年ならば大通りの雪掻きや衛兵の隊列が交替する姿が見え、それなりに人の賑わいがあるのだが、まばらに見られる人々の動きや表情に精彩さが感じられない。
貧民街近くの墓所には真新しい墓穴が幾つも掘られ、炊き出しを行う教会では、僅かな食料を取り合い血生臭いいざこざが起きている。
大通りを祝賀の挨拶に向かう貴族の馬車が王城に向け、数珠つなぎになり向かっていく。
そんな車列を虚ろな目で見る都の貧民の表情には、怒りとも恨みともいるような気色が浮かんでいる。
重く厚い灰色の雲が、ただ静かに雪を降らせていた。




