134話
セルジオに向かい、元村長とジードが掴みかかろうとしている。
『?!!!』
「セルジオ!! しゃがめ!!」
ジードが吠える。
メイドやニーニャの従業員が、目を見開き立ち竦んでいる。
彼等の視線の先を追い、振り向くと、幾つもの火球が迫っていた。
時間が緩やかに流れる。
クディとレシアが必死の形相で障壁を展開しようとしている。
正面に掲げた両手から、薄絹のベールような揺らぎが見えるが間に合いそうにない。
顔に火球の熱を感じる。
セルジオは無意識に石鋤で火球を遮るように掲げた。
口の中が苦い、しかし妙に意識はしっかりしている。
『俺一人ならいいけど、クディやレシア、ジードや村長も巻き込むかも・・・・
嫌だな、死なせたくないな・・・・嫌だ・・・・』
火球がベール状の障壁を軽く吹き飛ばし、セルジオのすぐ正面、グレゴの構える剣に迫る。
『グレゴさんやばいって、逃げていいのに・・・・助けなきゃ・・・・何とかしたい!』
セルジオは奥歯を噛みしめ、グレゴリアルの背に一歩詰める。
火球はもう避けれる距離にはない。
セルジオは焼かれる覚悟は無いが、それでも壁ぐらいには・・・・
皆の被害を少しでも・・・・
そう、強く願った。
セルジオは石鋤を突きだし、きつく目を閉じる。
異常を目の当たりにした群衆から悲鳴や怒号が上がる。
突然世界が白く塗りつぶされる。
セルジオの腕輪が閃光を発し、全てを包み込む。
火球は閃光に抗えず、飲み込まれ形を失う。
その火炎は渦を巻き腕輪へと吸い込まれるが、激しい閃光の中、その様子を目視できた者はいない。
・・・・
閃光は一瞬、真夏の太陽の様な輝きが現れ、火球と共に消えて行く。
群衆は目を晦まされ、しゃがみ込んで居るが、数名の実行犯が光の残滓の中、逃げようとしている。
彼らは、誰からも気付かれず逃げだそうと・・・・
するが、ターニャの弟子に次々と捉えられ闇へと姿を消した。
キラキラと煌めく火球の魔力の残滓が、花吹雪の様に舞っている。
セルジオはまだ目を閉じている。
クディ、レシア、グレゴは火球の残滓がキラキラと舞う様子を不思議そうに眺めている。
「無、無傷? 何があった?!」
レシアが信じられないといった様子で呟く。
「マーリンの腕輪のギミックかしら・・・・むちゃくちゃ凄い腕輪ね・・・・」
クディは蒼白な表情で引き笑いをしながら呟く。
「セルジオ殿恐るべしですな・・・・」
群衆も顔を上げ始め、舞い散る魔力の残滓に見惚れている。
「綺麗・・・・」
「当主様凄い・・・・」
「さすがセルジオさま・・・・」
呟きが零れ始め、次第に大きく成り、やがて一つになる。
『オオオオオオオオォォォ!!!』
拍手喝采、観客は何事もないセルジオ達をみて、余興と勘違いしたのか凄まじい歓声が巻き起こった。
・・・・
「えっ?! 熱くないけど・・・・」
「ハハハハ、消せるならはじめから言っとけよ・・・・」
へなへなと座り込むジードがセルジオに零す。
「ほんとじゃわい」
そばには元村長も座り込んでいる。
「いや、魔法とか消せないし・・・・で、どうなったの?」
「「さぁ・・・」」
訳も解らず、命を落とさずに済んだ面々は、飽きれ、驚き、笑うしかなかった・・・・」
群衆の興奮は臨界状態だ。
今にも暴れ出しそうな群衆に興業関係者が必死で押さえている。
立ち入り禁止のロープを越え、人々がジリジリと次第にセルジオ館に迫っている。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・
地の底から響く奇怪な音。
地鳴りが響き始める。
群衆が再び固まる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!!!!
地鳴りは地響きと成り、次第に立っているのが難しく成る。
「セルジオ様が怒った?!」
「なんだこれは?!」
「キャーァァアアアァァアァ」
パニックになる群衆、しかしその場を動くことが出来ない。
セルジオ館の背後にそびえる山肌のあちこちが、地揺れ耐えきれず崩落し始めている。
ゴォオォォオゴゴゴゴ・・・・
ブシュゥアァァァ!!!!
湯が出たと報告が上がった井戸から、間欠泉の様な湯柱が上がり、一帯を湯気と硫黄の香りが包む。
ドォオオオオオオオンン!!!
山頂の少し下の谷間が崩れ、石造りのダンジョンの入り口が現れた。
轟音と共に開口部から炎と湯気を吹き出し、幾つもの赤く焼けた岩が湖に向かい吹き飛ばされている。
かつてダンジョンの管理者が告げた、新たなダンジョンの入り口が開いた瞬間だった。
「い、いろいろとぶっこみ過ぎだって・・・・」
ジードが呟く。
トラブルに続くトラブル、セルジオを含め、彼の仲間はただ飽きれるばかりだった。
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