132話
セルジオの住む村でも新たな年を迎えた。
ダンジョンの管理者が告げた災禍や変化は訪れず、例年の様に雪が一面を覆い尽くす厳しい冬が山地の寒村を閉ざす・・・・はずだったのだが。
「今日もセルジオ様がダンジョンに潜られた!! 新年最初の幽霊の行進会場はこちらです!!」
興行主が大声を張り上げる。
「新年おめでとう!! セルジオ饅頭、3個買うと一個おまけするよ!!」
「セルジオ様の使う麻袋、布袋!! 福袋だよ!! 中身は開けてからのお楽しみ!!」
セルジオの仮館の前は、とんでもない人込みに包まれ、村から続く石畳はセルジオの隆盛に肖りたいという人々が【 セルジオ詣で 】を行う為に、遥々セルジオ村に押し寄せていた。
「「「「あ! セルジオ様だ!! セルジオ様ぁ!!!!」」」」
ダンジョンから顔を出すと、遠巻きに取り囲む人々が嬌声をあげお祭り騒ぎになっている。
セルジオがはにかみながら手を振る。
「「「キャァァァァァァ!!!」」」
「「「オォォォォオオォォ!!」」」
群衆から黄色い悲鳴と声援が地面を揺らす。
女性数名、足元から崩れ落ち涙を流している。
「・・・・なんなの? どうなってるの?」
セルジオも狼狽しながら、ダンジョンの中から外の様子を窺がう。
「セルジオ殿も大司祭並みの人気ですね・・・・」
汗をぬぐうアレクセイがセルジオに呟く。
「・・・・で、これ誰が治めるの?」
「「「「・・・・」」」」
手伝いの冒険者や兵士も途方に暮れるのだった・・・・
・・・・
逃げるように館に戻るセルジオ。
ほとんど暴動に近い群衆の波がセルジオと共に、仮館に押し寄せている。
「「セルジオ様!!」」
「「ご尊顔をお見せ下さい!!」」
館の外から、いくつもの声が叫び声が聞こえる。
「セルジオ、このままじゃ治まらないから時間を区切って顔を見せんか?」
元村長も蟀谷を摩りながら呟く。
「ちょ、ちょっとまってね、午後から顔見せしましょう!!」
ニーニャが金の匂いを感じて、部下の商人になにやら差配を依頼している。
「お昼からしばらく時間を空けてくれる?」
ニーニャが取り巻きと軽い打ち合わせをし、メイドにセルジオの着替えを言いつける。
いつにもまして煌びやかな服装。
どこから見ても服に負けている青年。
「クククク、セルジオちゃん・・・・クククク、に、似合ってるわぁ」
クディが視線を合わせる度に笑う。
メイドも必死に笑いを堪え、肩がヒクヒク動いている。
「おう!セルジオ・・・・なんか凄いな・・・・服が歩いてるみたいだ」
ジードが法王の様な豪華な服に飽きれ、空いた口が塞がらない。
コンコン!
執務室にグレゴが入ってくる。
「急遽護衛を・・・・ブハ!」
鼻を垂れ噴き出す元王国隊長が、視線を天井に向けて目を閉じ、笑いを堪える。
「・・・・普通の服で良くないですか?」
セルオも居た堪れなくなり尋ねるが、客寄せ珍獣扱いのセルジオの意見はスルーされる。
「一応、矢や投石の届かない範囲に群衆は下げられているが、何物が紛れているか解らんからの。
皆の者、気を引き締めてよろしく頼む」
少し前から、決してセルジオの方を向かない元村長の訓示の下、正面玄関上のテラスに一同は向かうのだった。




