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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 三章 再出発
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131話


 カール王の電撃訪問、翌日、国王の体調がすぐれないと言い始め、サラ王女共々都へ帰ると言い、

 逃げるようにセルジオの村を発った。


 サラは号泣しながら、今生の別れとでもいわんばかりの悲痛な表情で暇乞いに訪れ近衛隊長に抱えられるように去ってゆく。

 セルジオは、『まぁ、こんな辺鄙へんぴな田舎の村より、都の方が過ごし易いだろうし、両親一緒がやっぱり一番だよなぁ』と、彼女の気持ちを微塵も解っていない呑気な心持で見送った。



 

 そして、小さな変化は有ったものの、大した騒ぎもなく数週間が過ぎた。


 小雪が舞うセルジオの館周辺。

 建て増しが進み、平屋だった館は木造2階建になっており、上階の窓から幾つもの目が外の風景を見ていた。

 日々賑やかさが増していく彼の館の回りは、毎日がお祭りの様な喧騒に包まれている。


 しかも、日の出前から・・・・


 セルジオがダンジョンに潜った日は、村や市場に札が立ちその翌日の未明は毎回祭りとなる。

 明け方になるとダンジョンから湧き出でる古の兵達の行進が見られる為だ。

 噂は四方各国に広がり、セルジオ館周辺が一種の観光地のような状態になっているのだ。


 「そろそろ、定刻です! みなさんダンジョン入り口方面をご覧ください!!」

 興行主のような男性が、幽霊の通り過ぎる通路と群衆の間に『触るな危険』などと書かれた革用紙が下がるロープを張り「押さないでください!!」などと叫んでいる。


 軽く千人近くいるだろうか、皆が息を呑む。


 ダンジョン入り口付近から白い靄が立ち上り地表付近で人型を取り始める。


 『オオオオオオオォォォ!!!!』群衆から歓声が上がる。


 「わぁ、本当に湧いて出たよ! すげぇ・・・・」

 「なになに?俺には靄しか見えないぞ!?」

 「いるじゃないか、皆屈強な兵士・・・・あ、女の人もいるぞ?!」


 「あ?! 手を振ってる幽霊がいる!?」

 無意味にサービス精神旺盛な幽霊も混じっている。


 日の出前に通り過ぎる隊列の中に観客に手を振る幽霊が居るものだから、朝早くから見物人の人垣が出来上がり屋台まで出てたりする。


 「濁酒!!寒い時にはうまいよ!!一杯セルジオ銅貨2枚!! 2枚だよ!!」


 そう、ゴートフィッシュ領内の地域通貨が給料として支払われているのだ。

 質の均一ではない各通貨では色々不都合がある為、ニーニャ主導の下、給料をセルジオ(仮)通貨で支払っているのだ。


 最初は見たことのない貨幣に戸惑う労働者達だったが、商人達も質が均一な通貨に諸手を上げて歓迎した。しかも、偽造防止の為微量のミスリルが混ぜられており、暗闇でほんのり光を放ち偽物と本物を簡単に見分けられるのも大変好評で、乾いた大地が水を吸う様に領内に広がっていった。


 「串焼き! 焼き立て!! うまいよ!! セルジオ銅貨5枚!! 早めの朝飯にいかが?!!」

 「セルジオ饅頭!!吹かしたてだよ!! 一個セルジオ銅貨3枚だよ!!

 肉入りと蜜あん入りがあるよ!! あったかいよ!! 3個? まいどあり!!」


 幽霊の隊列が邪魔に成らない場所で、寒い星空にも関わらずオープンテラス風のフードコーナーは満席。

 酒に酔った観客から、「長い間大変だったな!! ごくろうさん!! しっかり成仏するだぞ!!」などと訳の分からない声援が飛んだりする。


 もう、いろいろ訳がわからない状態なのだ。

 セルジオ館前のこの情景が、周辺各国の人たちの今一番行ってみたい、見てみたいホットな観光地となってたりするのだ。


 「・・・・慣れるとはとは恐ろしい物じゃ・・・・」

 元村長がいつもの風景にいつものつぶやきを零す。

 最近やけに早起きになっているセルジオ家の面々が外の様子を見ていた。


 「そうね・・・幽霊目当てでこんなに人が集まるなんて普通考えないでしょね?」

 ニーニャが、興行主から上納された場所代の集計を終えて、葛籠に売り上げをジャララララと貨幣を流し込む。

 「レラの方はまだかしら・・・・」

 レブラーシカは外食を担当してニーニャをサポートしている。

 レシピと味の監修。

 セルジオ館の正面玄関両サイドは、貴賓席風の席が用意されており、どこかの貴族がコース料理を食べながら幽霊の隊列を眺めている。

 各地から流入する食材で、セルジオ領では普通では見る事も叶わない各地の料理が、臨時採用の料理人の手で作られ、美食家たちの舌を楽しませている。

 しかも日中の営業ではリーピーターまで出始め、三か月先まで予約でいっぱいなのだ。

 尚、幽霊観覧席は一年先まで順番待ちである。


 「今日も大儲け♪」 ニーニャがニンマリ笑う。

 ニーニャ商会は名を変え、今や銀行を併設するゴートフィッシュ総合企業体を運営している。

 とはいえ、銀行とは名ばかりの倉庫裏では、造幣所(仮)という鋳物工場いものこうばが、日中フル稼働で貨幣を大量生産している。

 天秤を使い、ゴダール貨幣を参考に重さには細心の注意を払い作られる貨幣は、誤差外の物は全て鋳潰す徹底ぶりだ。

 ニーニャの売り場は既に舎弟の商人に任せ、朝9時から営業を開始しする両替と融資業務を主体とし始めておりセルジオ硬貨を求める地域との両替で上がる利益と、直営外食部門の連日の大黒字でニーニャは笑いが止まらない。


 「レイクウッド殿は居るか?!」

 レシアが簀巻きにした犯罪者を数名引っ立ててくる。


 「ターニャ殿に取次ぎを願いたいのだが、どこにいるか解らん!」

 「どうした?! あぁ、婆さんは10時には顔を出すからそこらの柱に括りつけておいてくれんかの・・・・」元村長が視線で知らせる先、仮セルジオ館の広間の柱や梁には簀巻きになった野盗や盗賊が半殺しでぶら下っている。


 「今日は少ないな・・・・」

 ジードがそんな様子を見ながらぼそりと呟く。

 「まぁ、毎回懲りずに来るんだからいいんじゃなぁぃ?」

 クディも慣れた風だ。

 犯罪者らは、毎日の様に周辺の地域から安定供給されている。

 腕利きの兵士達によってきっちりボコボコにされ、魔法や薬で怪我を治療され、セルジオ領周辺の城壁築造の労働者として馬車馬ばしゃうまの様に働くことになる。(しっかり給与が出る有給まで完備)

 その監視は元王国隊長グレゴが厳しく目を光らせている為、さぼる事は許されず。

 逃げ出せばターニャ婆さんの息の掛った人たちの手でキッチリ落し前を付けさせられる。

 殆どの野盗や盗賊は、激務だがしっかり食えて遊ぶ金までもらえる環境を受け入れ、重要な労働力として重宝されている。


 「一人面白いのが混じっていたからターニャ殿に引き渡しをお願いしたい」

 レシアが小脇に抱えた、簀巻きに成った暴れる小柄な少年をぶちのめし、伸びた所で床に転がす。

 そこにリリルが、「お兄ちゃん?ダンゴ虫いる?」などと言いながら、彼の懐にダンゴ虫を詰めてたりするのを皆スルーしている。


 「そうそう、セルジオは?」

 ジードが思い出したように聞く。


 「あぁ、執務室だ。今幽霊が大挙して押し寄せてるから、話は日が昇ってからがよかろう」


 「あぁ、そうだった。 えっと、忘れる前に伝えておかないと・・・・

 流れのドワーフに井戸を掘らせてたんだが、湯が出たと報告が上がって来たんですよ」

 ジードが頭をボリボリ掻きながら、扱いが困ったように話し始める。


 「なんと、温泉を掘り当てたのか?!こりゃまた・・・・」

 元村長も目を見開く。


 「この前まで泥水しか出なかったんだけど、岩盤を刳り抜かせたら、ホカホカと・・・・・

 それで、湯殿でも作ろうか?ってセルジオに聞こうかと思って・・・・」

 「え?!ジードさん、温水プール作るの?!」

 ニーニャが話に入ってくる。


 「ん? あ、あぁ、どれだけの湯量があるか解らんからしばらくは様子見だけど、可能なら考えるよ」

 ニーニャが「セルジオの所に居るだけで、どんだけ儲け話が・・・グフフフフ」とブツブツ言っているが、リリルよろしく放置の方向で・・・・


 日々、急速に観光地化するセルジオ領。

 ちなみにその頃、セルジオは執務室の片隅で幽霊に起こされて眠い目を擦っていた。

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