130話
彼女にとって初めての感情・・・・彼女自身、良く解っていない。
サラは恋に落ちた・・・・ただ、なんとなくだがそう感じていた。
昨晩は、彼女はセルジオに送り届けられてから、馬車の中で一睡もできなかった。
落ち込んだセルジオの姿を思い出す度に、胸がキュンとする。
『わたくしがセルジオ様をお支えしないと!』
そう思う度に、赤面してしまいベットの中で転げまわる。
セルジオの優しい手の温もりと胸に抱かれた感触が思い出される。
「あわわわわ・・・・・」
更に赤面し、ベットの中を転げまわる。
今度は胸の奥だけでなく、お腹までキュンキュンする。
『セルジオ様に後ろから、ぎゅって抱きしめられたら、わたくし・・・・キャァァァァァァ』
妄想といえ可愛い物なのだが、そんな甘々な妄想が妄想を呼び、ベットから落ちても更に激しく馬車の床を転げまわる。
彼女は激しく床を転げまわり、一瞬我に返る。
すっと立ち上がり、何事もなかったようにベットを整える。
再び潜り込み、それ程経たず、ゴロゴロと同じことを繰り返す。
日は昇り、朝餉を準備する侍女達。
馬車から一晩中聞こえてくる転がる音を聞きながら、昨晩から何度目かの声を掛ける。
「姫様、如何されました?」
「何でもありません!!!! ひゃぁぁぁぁ」
ゴトン! ゴロゴロゴロゴロゴロ
声を掛けると、更に激しく転げまわる音が聞こえる。
「はぁ、姫様は一体何をなされてるのでしょう・・・・」
「昨晩、泣きはらしたお顔でお戻りに成られた後、惚けたように公爵を見て居られましたが・・・・」
「やっぱり何か有ったのでしょうか・・・・」
「あったんでしょうね・・・・」
「国王とお妃にご報告した方が良いのでは?」
「私たちより、近衛隊長にお任せしましょう・・・・」
小声で囁き合う侍女一同が、近衛隊長に視線を合わせず様子を窺う。
彼女達の視線の先には、真っ赤に目を充血させ、射抜くように馬車を睨みつける近衛隊長の姿があった。彼からは一晩中異様なオーラが漂っており、未だに誰も声を掛ける事が出来ずにいたのだった。
サラの奇行の所為で、また一つ誤解(不幸?)を招いている事をセルジオは、まだ知らない。




