129話
カンテラの灯りが揺らめくダンジョンの隠れ家に、セルジオは独りしゃがみ込み膝を抱いていた。
彼の気持ちに反応するように、黒い瘴気が彼の回りで渦巻く。
セルジオは、自身を蔑み、恨み、呪っていた。
それは、後悔である。
何故あの時気が付かなかった、何故問い詰めなかった、何故行動に移せなかった・・・・
何故、何故、何故、どうしてこうなった・・・・
全ては自身に力がなかったから、能力がなかったから、知恵が無かったから、知らなかったから・・・・
言い訳が次々と浮かんでくるが、それを許せるセルジオではなかった。
強く噛みしめる唇が切れ痛む。
奥歯を強く噛みしめ、キシキシと軋み時折歯が欠ける。
そんな痛みも、自身を苛む心を癒すわけでもない事は解っているが、それでも思考がループする。
手元の石鋤を強く握り締める。
何故だか石鋤を握ると、『敵は取れる、そのチャンスがいずれ来る』そう思えてくる。
砕け折れそうな、小枝の様な心が、しなやかな生木の様に自責を受け止め、撓り、受け流し、機会を逃すなと語り掛けてくる。
『そうだ、奴から仕掛けてくる。
待ってればいずれ合間見える事に成る。
その時こそ、万感の思いをぶつければいい。
その為にも、生き残らないといけない・・・・』
膝を抱え、石鋤を握り締める手に、生気と気力が戻ってくる。
石鋤が太い幹の様にセルジオを支えているように感じた・・・・
ふと、視線を上げると、闇の中に灯りが見える。
「?!・・・・誰だろう」
カンテラと思われる灯りが次第にこちらに近づいてくる。
闇に浮かぶ女性の姿。
サラが独り、まっすぐにこちらに向かって来ている。
セルジオは立ち上がり、サラを迎える。
「はぁはぁはぁ、セルジオ様・・・・」
サラが親に向けてた目よりも更に心配そうな視線を向けている。
「・・・・どうして?・・・・」
「セルジオ様の御様子が、おかし・・・・普通ではないご様子でしたので、わたくし居ても立ってもおられず、追って来てしまいました」
サラが泣きそうな顔でセルジオの顔を凝視する。
『・・・・心配させてしまったんだ・・・・』
セルジオの心が急に冷めてくる。
怒りはまだあるが、復讐を求める強い衝動も随分収まっている。
不思議だが、冷静に今後の事を考え始めている。
「・・・・ごめん、心配させて」
「・・・・いいえ、そんな・・・・」
いつもの様子に戻っているセルジオに安堵したのか、気が緩んで涙目になっているサラ。
セルジオはそんな少女の頭に手を乗せ軽く撫でる。
「!!? あぁ、やめて下さい!? そんな事されると泣いてしまいます・・・・ふ、ふぇぇぇ~ん」
セルジオの生い立ちの一部を聞かされ追ってきたサラが、彼の心情を慮り代わりに泣き始めてしまう。
「また、近衛隊長にどやされるよ?」
「・・・・でも、でも・・・・」スンスンと鼻を鳴らし鳴き声を噛み殺すサラがとても可愛い。
『生まれたての山羊の子みたいだ』
頼りないが、親を頼っていつも傍らに駆け寄る子山羊と彼女をだぶらせるセルジオ。
・・・・恋愛感情の芽生えを予感する彼女とは別の次元にいる彼の鈍感さは城塞よりも強固な造りになっているようだ。
潤んだ瞳でセルジオを見つめるサラ。
それを見て、乳をせがむ子山羊を想像するセルジオ。
目を瞑り、唇を差し出すサラ。
セルジオは・・・・ 何故か顎下をワシワシと撫でる・・・・
サラは更にセルジオに体を預け、胸に垂れかかる。
セルジオは甘える子山羊をあやす様に、ポンポンと背中をたたく。
・・・・
闇の中、二人の男女の距離は平行線のまま、時間だけが過ぎて行った。
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