110話
サラとの待ち合わせ場所の路肩に腰を下ろし、朝靄の立つ斜面を眺める。
土の地面と立木から舞い上がる靄が、日の光に当たると消えてゆく。
湖のある方向に大きな霧の塊が雲のように膨れ上がり、低い方へと滝の様に流れてゆく。
惨劇から数日で人々の生活は日常のサイクルに戻りつつある。
「みんな、逞しいなぁ・・・・」
暖を取るための火が起こされ、そこで炊き出しの準備が始まっている。
朝日の昇った直後の景色が好きなセルジオはそのままぼーっと人々の営みを眺めていた。
「セルジオ様!? セルジオ様がいる!!」
薪をあつめていた商人風の男性と目が合う。
「えっ?」
男は声を張り上げ、薪を足元に置くと駆け寄ってくる。
「ありがとうございます!セルジオ様!」
「セルジオ様、炊き出し、助かってます!!」
「ゴーレムを一人で倒したセルジオ様は近隣の誇りです!!」
「セルジオ様だぁ!」「セルジオ様!!」「セルジオさまぁ!!!」
喧騒に起きてきた人々が次々とセルジオの元に集まってくる。
どこからともなく音頭を取る者が、セルジオの名前を連呼し始めると、群衆がそれをまねる。
「「「「「「「セルジオ!セルジオ!セルジオ!セルジオ!」」」」」」」」
次第に大きくなる声援に導かれ、更に多くの者が集まってくる。
『セルジオ!セルジオ!セルジオ!セルジオ!』
「あぁ・・・・ど、どうやって治めよう・・・・」
セルジオを取り巻く人垣を掻き分けて、サラが現れた。
村民の恰好にティアラとイアリング、首元にはネックレスが光っている少女がセルジオを庇うように立ちはだかり、声を張る。
「お静かに!!」
絶妙のタイミングで彼女の声が群衆の耳に届き、喧騒が静まっていく。
遅れてきた近衛が彼女と群衆の間に割入り人垣を退けた。
「私はサラティア・レイクフィッシュ・ゴート ゴート国の王女である!」
「セルジオ殿はこれよりダンジョンに向かわれる。
我々の憂いを払う為、その身を犠牲に闇に降りて行かれるのです!」
『オオオオオオオォォォ!!!』
「わたくし、サラスティアもセルジオ殿に付き従い、ダンジョンに赴き皆の一助を目指します。
故にセルジオ殿を困らせることなく、厳しい日々に負けず、励んで頂きたいのです!」
「セルジオ様を困らせるやつは、俺がぶんなぐるぞ!!」
「ハハハハハハ いいぞ!」
群衆のからの声が、笑いを誘う。
「では、セルジオ殿から御言葉を!」
サラが話を振り、後ろに下がる。
「・・・・」
嫌な汗が大量に流れるセルジオ。
顔から血の気が急速に失われ、今にも倒れそうな程白くなる。
サラが小声で話しかけてくる。
「「皆の者大儀である、今後も励むが良い」って言うんです。」
『いや無理です! そんな偉そうなこと言えない!』セルジオは心の中で言うが声に出ない。
静まり返る群衆とその瞳がの全てがセルジオを見ている。
「み、みなさん! お、俺はできないことばかりです!
みなさん達の方が俺より色んな事ができます!
だ、だから、俺は、俺にできる事をします!
みなさんも、出来る事を頑張ってください!
これからダンジョンに向かうのでこれで!」
『オオオオオオオォォォ!!!!』
人々の拍手喝采、中には泣いている者までいる。
セルジオは恥ずかし過ぎて、俯いたままダンジョンへ走り去った。
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