9.5話
R15:遺体の表現があります。
今後の先行きが解ってて、段々暗い内容になるのですが、あと何話になるだろう・・・・
そろそろ特効薬の話に落としたいのに・・・・
容疑者は、林の陰に当たる場所、窪地に倒れ伏し事切れていた。
死後数週間、体には蛆が這い、周辺には腐臭が立ち込めている。
テリル医師夫妻が遺体を検死する。
飛び回る蠅を遠ざける為除虫草を焚き、なるべく遺骸を触らない様に、装備品を回収してゆく。
足元には黒く染まった地面。
かなり吐血をしたようだ。
薬と思われる割れた試験管が数本足元に転がっている。
遺骸に食痕は無い。
野生の動物も病気を恐れたのかもしれない。
体内で発生したガスが内圧を上げ、飛び出しそうになって眼球や舌の傍らに蛆が蠢く。
噴出した体液で汚れた衣服を切り除く、外傷を確認するが見当たらない。
青い血管の浮きだしたブヨブヨの皮膚には、この度の流行り病の特徴が見て取れる。
兵士らによりゾンビ化していないのは聞いていたが、瘴気が有れば直ぐにでも死霊化してもおかしくない状態だ。
剥ぎ取った装備を、木の枝で器用に摘み上げ、麻袋に収めてゆく。
現場に残された遺留物が他にないかを見回し、最後にテリル夫妻はお互いに浄化の魔法を唱え、隊長の側に戻った。
・・・・
カミュ看護師の唱える浄化の光が遺留品を洗う。
懐には在ったのは僅かな銅貨と、親指の爪程の大きさのワール金貨が一枚。
彼の命は、悪貨の金貨一枚の重さであったようだ。
背嚢の中身は、衣類や寝具の日用品、ポーチに幾つかの薬が収められていた。
遺品の指輪は宝石は砕け、何らかの魔法が発動したものと思われる。
「中身は慎重に検めなければなりません、この容疑者の死因は病死か服毒死か、微妙なところです」
テリル医師が皆に伝える。
その後も魔法の発動媒体が入っている恐れがある為、慎重に検分が進み、特に怪しい遺留品のみが机の上に集められた。
「・・・・結局身元を示す物は見当たらないか・・・・」
隊長は遺留品を検分する部下を見ながら、村長の陰謀説に確信をもつ。
そして証拠物件と思わしき、指輪と薬を厳重に梱包することを命じだ。
「早馬の準備を! 組織的な動きであった場合取り返しがつかん、急ぎ王都に通達せよ!
妨害工作の恐れもある。
単独の行動を禁ずる!」
「「「「サー!」」」」
兵士達は上官の指示に従い、それぞれの使命を果たすべく行動を起こした。
遺体を焼くには強過ぎる炎が夜の空を焼く。
村の集合墓地の近く、それと西の森の一角から赤い炎が揺らめいている。
この日より村では、遺体を焼く煙が途切れることが無くなった。