109話
セルジオが道端の麻袋を拾い上げ、後ろを振り向く。
「本当にダンジョンに潜るつもり?」
「は、はい!」
少し後ろをカルガモの雛のように付き従う彼女に、『ちょっといいかも』と思うセルジオ。
「セ、セルジオ様? 忘れ物をしたので取りに戻ってもよいでしょうか?」
「ん? わかった、ここで待ってる」
「はい! 急いで戻ります!」
サラは後ろ髪を引かれながら寝泊りしている馬車へと走り去った。
・・・・
「はぁはぁはぁはぁ・・・・やった! ご一緒できる! 上々だわ」
重いぶかぶかのブーツも気にならない。
体が軽く感じる。
セルジオを追いかけた距離はとても長く思えたのに、今はとても短く感じる。
何人かの人とすれ違う。
彼らはサラを王女と思う者はだれもおらず、寝ぼけ眼で見るだけで関心を示すものはいない。
自分の馬車が見えてきた。
馬車の傍で、侍女が朝食の準備をしている。
近衛兵が、走り寄る人物を誰何しようと集まるが、サラスティア王女と見て判り、その場に膝をつく。
侍女も堪ったものではない。
夜回りの侍女は王女の外出に気が付かず、死ねと言われてもおかしくない状況に凍りつく。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・すべて不問にする!
今は時間がないのです!
はぁはぁはぁ・・・・質問は受け付けません!
セルジオ様とご一緒できる機会です! 邪魔する者はゆるしません!
はぁはぁはぁ・・・・お父様から授かった物をいそいで!! はやく!!!」
サラは差し出された白湯を呑み、息を整える。
「そのようなお召し物を・・・・」
侍女が瀟洒なローブを持ってくるが、サラは手で払い避け、強い口調で窘める。
「お黙りなさい! これはセルジオ様からお預かりしたものです!
侮ることは許しません!」
いつも朗らかな王女の何時もと違う強い語気に侍女は今にも泣きそうになる。
「姫様、お持ちしました!」
「はやく、はやく付けて!! はやくはやく!!!」
いつもは侍女にまかせっきりのサラは、指輪を取り上げ自分で付けていく。
ネックレスとイヤリングを付けて貰ている間に、ティアラの頭に乗せ「どう?おかしくない?」などと侍女に聞く。
ティアラの位置を直してもらい、「朝餉の支度が整いました」と告げる侍女に「それ所ではありません!」とそのまま走り去ろうとする。
そこへ、状況を見守っていた近衛兵が傅き口上を述べる。
「王女様御一人での外出は危のう御座います、我々供回り・・・お?」
近衛兵が顔を上げると、サラの姿はもう随分小さくなっていた。
「はぁはぁはぁ・・・・間もなく、間もなくお傍に参ります!」
遠くから聞こえる近衛の声を聞こえない事にしてセルジオの元に向かうサラスティアだった。
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