106話
まだ日が昇らない明け方、サラはメモをとった日記を開き何かブツブツと反芻している。
「おっぱい好き、お料理美味しいと尚良い、それと長く一緒にいること・・・・
おっぱいはそのうち大きく成るはず、お母さまもそこそこだったもの。
お料理はこれから、セルジオ様が見つからない時はレラ様の手伝い。
セルジオ様を見かけたら・・・・くっついて離れない!!」
馬車の車窓から、侍女や近衛兵のテントが見える。
東の空はほんのり白み明るくなっている。
昨日と打って変わり、手が届きそうな星々がキラキラと輝く寒空の畑だった法面にぼんやり眺めていたサラが目を見開く。
・・・・
セルジオの朝はいつものように早い。
その朝の早いセルジオの最近の活動時間は、更に早くなっている。
ゴーレムを潰した日から、セルジオには兵士や商人に限らず、貴族や村人まで彼を追い回し話をしろとせがむ。
ゴシップに飢えた民衆は彼を英雄と囃し立て、気まずいセルジオはひたすら逃げ惑っていた。
その為、何かと理由を付けてはダンジョンに潜るのだが、日が有るうちに入り口に向かうと仕事の手を止めてまで彼を追う者が続出するので、今日から夜明け前にダンジョンに向かう事にしたのだ。
「う~ん! やっぱり気楽が一番!!」
石鋤に紐で結わえた袋の束を下げ、石鋤を肩にダンジョンの入り口へと向かうセルジオを呼び止める声がした。
「・・・・セルジオ様!」
「ん?!」
少女の声に思わず振り向く。
そこには、透けるようなシルクの寝間着の上に分厚いコートを羽織っただけの裸足の少女が立っていた。
「!? なんて恰好してるの!」
少女は霜が降りた地面を踏みしめ、セルジオの胸に飛び込むような勢いで駆け寄るが、手が届く距離でピタリと止まる。
全力で走って来たのか、息が荒い。
「・・・・セルジオ様、いずこに行かれるのですか?」
白い息を吐きながら、顔を上気させて問いかけてくる。
「だ、ダンジョンにだけど?」
少し狼狽えながら、少女に目が釘付けになる。
羽織った瀟洒なコートの胸元は肌蹴、膨らんできた胸が透けそうな程に薄い寝間着から見えそうで見えない。
足元の寝間着は捲れ上がり、形の良い腿が深いスリットが入ったように見え隠れしている。
「わ、わたくしも付いてゆきます! お手伝いをさせて下さい!!」
すごく真剣な眼差しでセルジオを見据える少女が本気であるのが伺える。
「・・・・え? あっ、その恰好じゃちょっと・・・・」
言いよどむとセルジオに畳み掛けるように少女が問う。
「どのような姿であればよろしいのですか?」
「!?・・・・こんな感じ?」
そう言うと、セルジオは両手を広げ、自分の姿を見せる。
「・・・・そのような・・・・今は所持しておりません、直ぐに揃えさせます・・・・
ですから、今は御貸し頂くわけには、ゆきませんか?」
尚、食い下がる少女。
セルジオはその申し出を断ろうと少女を見ると、その体が小刻みに震えているのに気が付いた。
彼女の真っ白い裸足の指先から次第に血の気が引いてゆく。
先程まで桜色の唇も色を失い、青みが差しているようにも見える。
「・・・・まずは暖を取ろうか」
セルジオは麻袋を道端に降ろし、彼女の前に背を向けて屈み、負ぶされと促す。
少女の真っ白な耳が再び真っ赤になるが、意を決したようにセルジオの背に縋りつく。
セルジオは石鋤を彼女の背に廻し柄で尻を支えると、「よっ」と声を掛け彼女を背負った。
「・・・・重たくありませんか?」
「ん? 全然、軽いですよ?」
大人2~3人分の重さのある麻袋を背負っていたセルジオには彼女の重さなど意に介する事もなく来た道をもどって行く。
「それより、君はだれ?」
セルジオは前を向いたまま、背中の少女に尋ねる。
「サラスティアです」
「どこかで聞いた名前だね・・・・どこでだろう・・・・」
いつもの着飾った彼女を見たのなら直ぐに気が付いたのだろうが、今の彼女は髪もおろし何処かの商家の御令嬢といった姿に、王女と同一であるとなかなか結び付かない。
「サ、サラとお呼びください」
背中で真っ赤に頬を染め、自分の胸の鼓動がバレないようにセルジオの背に両手を当て胸を少し浮かす。
本当はヒシと抱き付きたいのだが、そこは自分の羞恥心が勝り許してくれない。
「・・・・だれかの知り合い?」
「は、はい!リリル様とは仲良くして頂いてます!」
「そっか、リリルの友達か・・・・改めて、俺はセルジオって言います。
知ってると思うけど、ここの当主って事になってるけど、元村長がいろいろやってくれてるから。
こまったら、彼の所・・・・あ、元村長はリリルのお爺さんだよ、って知ってるか、ハハハハ」
背中のサラは既にいろんな物が許容量を超え、背中で茹だっているのにセルジオは気が付かず、照れ隠しでいろいろ適当な話をしながら仮住まいに向かうのだった。
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