104話
襲撃から数日、冬の訪れにより一帯は一面の銀世界となっていた。
人海戦術よろしく、多くの人々が雪を搔き、男手は廃材で小屋を作っている。
当面の雨露をしのぐ仮住まいではあるが、計画的に整えられた区画に整然と小屋が立てられてゆく。
屋敷周辺の燃え止しではあるが、良い物が使ってあった為十分に部材として再利用が可能だったのだ。
また、命を救われた商人も採算度外視で商品を提供する。
これは、セルジオ?家の差配で全て買い取られ、避難民へと分配されていく。
「レェブラーシカ様、炊き出しはこの程度で宜しいでしょうか?」
「えぇ! あぁ、私名前長いから、レラって呼んでね。
大鍋は、こことあそこに! それと干し肉は使わずに、兵士さん達が取って来た鹿と猪を先に使って!」
見た目10歳程のレブラーシカが指示を飛ばす姿を、胡乱な目で見ていた部外の者も、彼女の的確な差配に今では率先して言う事を聞いている。
「あの、わたくしにも何か手伝える事はありますでしょうか?」
姫様がレラに尋ねる。
「では、そこの食材を・・・・きゃ!!」
「姫様!!!! その様なことは私共がおこないます!!
座してお待ちください!!」
彼女の後ろに傅いていた侍女が、驚愕し飛ぶように彼女が受け取ろうとする荷物を取り上げる。
「・・・・わたくしも、お役に立ちたいのですが・・・・」
「「「「なりません!!」」」」
侍女の声が、カルテットの様に重なる。
途方に暮れる姫様。
そんな彼女の裾を突然幼女が引いた。
侍女の目が鋭く幼女を射抜くが、幼女はどうしたの?と小首を傾げ姫様に耳打ちする。
「お姫様は、セルジオにいちゃんのお嫁さんに成りに来たの?」
「ひゃ!・・・・」
幼女の直球の問いに、耳が赤く成る。
「それは・・・・内緒の話ですよ」
彼女も幼女に耳打ちすると、ニカァっと笑う幼女。
幼女はまた、姫様に耳打ちをする。
「リリルもね、セルジオ兄ちゃんのお嫁さんになるんだよ!
私が先だから、お姫様は二番目だね? にへへ♪」
とんでも無い話をサラリと告げるリリル。
「・・・・えぇ? セルジオ様は、もう婚約されておいでなのですか?」
赤かった顔がみるみる青ざめる。
「こんやく? うんとねぇ、セルジオ兄ちゃんはねぇ・・・・えっと・・・・
『お前を守る!』って言ってたの、これも、こんやく?
マーニがね、それは、きゅうこん?って言ってたの! にへへ♪」
今度はリリルが顔を赤らめる。
「けどね、リリル最近、リオン君も気になるんだぁ。
この前ね、一緒にダンゴ虫探してくれたの。
リオン君、やさしいでしょ? だからリリル困ってるの」
そう言うと、後ろに手を組みモジモジと足で雪を均している。
「・・・・そ、そうなのですか、ビックリしました」
真に受けた姫様が、安堵の溜息をつく。
「わたし、リリル。 うんとねぇ、5歳なの、お姫様のお名前は?」
「サラスティア、サラって呼んでね、今年で14歳になるわ」
「サラお姉ちゃん! 同じ人が好きどおしだから、お友達だよね?」
「えぇ、お友達よリリル」
サラはプリンセススマイルでリリルに笑いかける。
「わぁ!! お姫様みたい!!」
いや、お姫様である。
「でも、でもね! サラお姉ちゃんは、リリルの次なの! わかった?」
「・・・・で、できれば一番がいいなぁ」
そこは譲れないサラは、抵抗を試みる。
「えぇ? 女の世界は、じゃくにくきょうしょく?なんだよ!
良くわかんないけど、マーニがそう言ってたんだから!」
リリルの友達、マーニ恐るべし。
「む、難しい言葉をご存じなのですね、リリルは・・・・」
「にへへ♪ 他にもたくさんしってるんだよぉ!」
「どんなことですか?」
「あのね、みんなには絶対に内緒だよ? いい?」
「はい!」
そんな、リリルとサラを生暖かく見守る侍女達は、これから明かされるセルジオ攻略作戦の全貌を知らずに和やかに見守ってしまった事を、後に後悔するのだった。
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