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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 王国の食指
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102話

 季節も冬へと移り変わり、セルジオの村にも雪が積もった。

 地面がぬかるむ中、セルジオは今日もダンジョンから遺体を引き上げる。


 寒さの為、亡骸の腐敗は随分緩やかだが、それでも日を追うごとに死臭が増して来る。


 今の所、隣国の兵士の遺体に死霊憑きはおこっておらず、ダンジョンの入り口からロープを持ち込み、遺体に括りつけては、表の兵士等に引き上げさせた。

 圧死した300を越える坂道の遺体は数日のうちに粗方埋葬を済ませ、今日は石戸近くのまだ状態良い遺体を坂下に運び出し、嫌がるアレクセイを使いロープを掛けさせては、表に運び出させている。


 「はぁ、やっぱり重い・・・・」

 ボロボロの遺体を引きずり出し、セルジオは腰を伸ばす背伸びをして呟く。


 「おえぇ・・・・セルジオ殿はよく平気ですね・・・・」

 小柄なアレクセイは、時々嘔吐しながらテキパキとロープを掛けて行く。

 「? これでも大分楽な方だよ?」

 セルジオが何をいってるの?といった風に、彼の側に腰を下ろし水筒の水を呷る。


 「それもですよ、こんなに生臭い所でよく水なんて飲めますね」

 「? 家畜の解体とかも生臭いだろ?」


 「!? 家畜の解体と一緒のレベルなんですか?」

 腐汁のしたたる麻袋と合わせ、ロープを引くと、ズルズルと出口に引き出されていく遺体を見送りアレクが不満そうに答える。


 「ちゃんとお布施もしてるんだから、いいだろ?」

 「えぇ? 確かにまとまった金額ですけど、あれは肉体労働の対価込々なんですか?」


 アレクも返り血で赤黒く汚れた手を、麻袋で拭きセルジオの横に腰掛ける。

 「あとどれくらいあるんですかね・・・・」

 アレクセイも大分感覚がおかしくなってきてるのか、セルジオの渡す水筒から水を飲み、レラから持たされたサンドイッチを汚さないように包みを器用に開きガブリと齧り付く。


 「3日間で、石戸まで片付いたのは凄いよ。

 俺一人だったら、何日掛かることか・・・・」

 セルジオもブランチを口に運び、ランタンの油の残量を確認する。

 近くには掻き集めた酒精の強い酒瓶が並べてあり、ランタンの火が移らないように少し離しながら、口をモゴモゴさせている。


 「そう言えば、姫様にはまだちゃんとお会いしてないんでしょ?」

 「ん? 何で急にその話を?」

 「あの姫様、時々懺悔に訪れて、セルジオ殿に会えないのは自分が不徳だからかって零してますよ」

 「・・・・それ、ばらして良いの?」

 「善意に基づく、小さなお節介です」

 「誰だっけ、小さな親切、大きなお世話って言ってた気がする」

 「それは多分気のせいですよ。

 セルジオ殿は当主なのだから、そろそろ当主らしい仕事をしても良いのでは?」

 小柄のアレクセイに諭されると、ありがたさより子供に諭されているような気がしてくる。


 「まぁ、石戸の先にある遺体がまだまだ沢山あるんだから、それが片付いたら考えるよ」

 「そんな事言ってると、あの姫様がダンジョンの中に入って来ちゃっても知りませんよ?」


 「?! そんな事言ってるの?」

 「・・・・はい、今の所思いとどまって頂いてますが、彼女には彼女の事情があるようですし・・・・」


 「えぇ? ニーニャさんも レェブラーシカさんも あの レシアでさえ嫌だって言ってるんだぞ?

 あんなお姫様が、こんな汚れ仕事したがるはずないでしょ?」

 「・・・・それが・・・・変なスイッチが入ったらしくて、セルジオさんを英雄か勇者の様に尊敬してますよ、彼女・・・・」

 「???! なんでそんな事になってるの?」

 「畑の土を心配してゴーレムを止めた事を知ってるのが、私とクディ殿だけだからですよ」

 「!? なんでみんなに言わないの?」

 「いえる訳ないでしょ? セルジオ殿がいるから、安全だって話にしておかないと何時暴動が起きるか解んない状況なんですよ?」


 「・・・・はぁ・・・・」

 セルジオは大きな溜息をつき項垂れる。

 「・・・・アレクセイがやっつけた事に出来ない?」

 「無理です!」


 ランタンの灯が穏やかに揺らぐ腐臭に満ちた空間で、呑気に話す二人だった。

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