101話
3章:プロローグ 王女の日記より
11の月、3日
お城では分らないのだけど、最近、都の様子がおかしいらしくて、お父様が浮かない顔をしてる事が多いの。
そういえば、内相が、ある村から多額の税が現金で送られて来てると騒いでいたけど、どうもそれが原因らしいわ。
税を沢山納めてもらってるのに、何が大変なのか私には良く解らないわ
・・・・
15日
内相がまた騒いでるの。
紋章官を連れて、内密にお父様と長い間お話ししていたわ。
お母さまがおしゃるには、当家より格上の王族の紋章をもつ家が復興申請をしてきたらしいの。
とても大変な事に成るから、だれにも言ってはダメだって。
由緒正しい家が復興するのだから、良い事だと思うのは私だけ?
・・・・
20日
いくつもの貴族の家で惣領の葬儀が行われてる。
このところ連日。
私も参列するのだけど、ドレスより喪服を着ている時間が長いのは、気が滅入るわ。
25日
私の輿入れの話しを、お母さまが持ってらしたわ。
私も年頃だし、前々から覚悟をしておくようにと言われていたけど、突然のお話しらしく、お母さまも泣いて居られたわ。
とても変わった方らしいけど、どんな方かしら?
高齢の方でなければ良いのだけど・・・・少しはお話しの出来る方だといいな・・・・
何でも、税を沢山おさめた村の方らしいのだけど、復興したてで嫁ぐととても苦労するだろうって。
実感なんて全然わかないのだけど、村人の様な生活をすることになるのかしら?
・・・・
26日
いろんな方が別れの挨拶に来られるの。
私はまず、王国の使者として赴くらしいわ。
復興する家の当主はセルジオ様って言うらしいけど、王国の色んな貴族が彼を怒らせてるだろうから、授爵を断るかもしれないって・・・・そんなの私のせいじゃないわよね?
お父様が私の部屋を訪ねていらして、頭を下げるの。
これが上手く行かないと王国が立ち行かなくなるって仰るの。
とても力をお持ちの方らしいわ。
何としても、都に招きたいって仰るの。
私、なんだか怖くなってきちゃった。
・・・・
28日
マルコと言う商人が訪ねてらして、私と共に村に向かうからと言われたわ。
発つのは明後日らしいの。
私の知らない所で、難しいお話しが進んでいるようなの、いつもの事だけど・・・・
それでも急なお話しだわ。
お母さまからのお話しも、つい先日のお話しよ?
私、セルジオ様に気に入って頂けるかしら?
・・・・
30日
侍女たちが泣いている。
私が可哀想だって。
とても田舎の貴族でもない殿方に嫁ぐだなんて、ひどいって。
私は使節として赴くのよ?って皆を慰めるのだけど、みんなひどい顔で泣くものだから少しおかしかったわ。
けれど、少しもらい泣きしちゃった。
・・・・
12の月 3日
すごい強行軍?馬車は昼夜走りっぱなしだったの。
お尻が痛くなったけど、みんなに比べたら私は楽な方だわ。
供回りは爺が付いて来てくれてる。
どれくらい滞在するか解らないから、必要な物は後で送るって言われたけど、私は何が必要か解らないの。
村には夜更けに到着したのだけど、山間部の村にしては随分活気があって都より賑やかじゃないかしら?
昼間こっそり村に出て散策したいな・・・・
・・・・
10日
村に新しく建てられた旅籠に滞在して一週間。
セルジオ様は、まだ私に会って下さらないの。
なんでも、王国軍の兵士を弔うのに忙しいって仰ってるらしくて・・・・
私も知っている貴族の当主が何人も、セルジオ様のお屋敷を訪れているらしいわ。
とても不思議な事が起きるらしいの。
セルジオ様が弔うと、子息達が幽霊になって暇乞いをされるらしいの。
憤慨して大騒ぎする方々もおられるけど・・・・
領地に帰られる時には何かさっぱりした顔つきになってるのも不思議。
セルジオ様って、不思議な力をお持ちなのかしら・・・・
・・・・
12日
隣国がこの村を襲うとの知らせがきたわ。
戦争に成るらしいの。
とても大軍で押し掛けてきたらしく、爺が近衛兵を連れて湖に向かったわ。
爺は無事もどれるかしら、とても心配。
先ほど一瞬だけど、セルジオ様を見ることが出来たわ。
胸がとてもドキドキした。
必死に走ってらしたの。
戦場に向かったのかしら。
馬車の中では、上手く書けないから、ここでやめておくわ。
・・・・
13日
信じられない出来事が起きたの。
風景が一変してしまったの。
炊き出しと焼け出された人々の世話で、私も一日中大変だったわ。
なんでも、ダンジョンからゴーレムが出てきて、隣国の10万の兵士を焼き払ったんだって。
それを、セルジオ様がお一人で倒されたらしいの。
お伽噺に出てくる、勇者様みたい。
お父様が是非都へって言ってたのが判るわ。
私も、早くお会いして、いろんなお話しをしてみたい。
・・・・
彼女はいつも大事に持ち歩く日記を閉じる。
焚火の灯で揺らぐ羽ペンを片づけ、白い息を吐いた。
寒空から、白いものがヒラヒラと舞い落ちる。
彼女は侍女から掛けられた厚手のコートの袂を手繰り寄せ、まだ会えぬセルジオに思いを馳せるのだった。
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