98話
地上でフードの男が檄を飛ばしている頃、ダンジョンの回廊では地獄絵図へのカウントダウンが始まっていた。
坂を下り、開いたままの石戸から次々と兵士が雪崩れ込んでくる。
そして、まず安全を確保する為突入した、小隊程の兵士達は散開し、顔を上げてはギョっとする。
石戸から出た正面には、拳を今にも振りぬこうとした姿勢のゴーレムが彫像の様に佇んでいるのだ。
散開した兵士が恐る恐るゴーレムを調べる。
武骨な岩肌が剥きだしの手足。
足の関節、膝付近の岩は、上下種類の違うものに見え、つなぎ目は、粘土を半端に捏ねた様に混じりあい、ゾウの足の様に寸胴で重厚な形状になっている。
そして、ゴーレムの頭は兵士二人分の身長とほどの高さにあり、松明の灯が不気味な陰影を浮かび上がらせていた。
微動だにしないゴーレム、長い歳月その場にあり続けたような雰囲気と風格があるように感じらる。
残念ながら彼等は、その質量感に圧倒され、足元の床にある引き摺った跡に違和感を持たなかった。
パチ パリリィ・・・・
ゴーレムの眉間に青白い電光が瞬いた。
暗闇の奥から重い足音が響く。
ズン ズズン ズンズン
兵士たちは既に4個小隊以上、石戸を潜り隊列を整え始めていた。
ゴリゴリ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
碾き臼の様な音と共に、石戸の前のゴーレムが兵士達に向き直る。
態勢を整え兵士を見下ろす。
一拍の間が、長く感じる。
ゆっくりと右腕を引き・・・・
ズン ズンズン ゴリリリリ!!!
素早く右足を踏み出し、一気に腕を振りぬく。
動きに反応できた兵士は僅かだった。
殆どの兵士は立ったまま、丸太のような岩の腕で刈り掃われ、引きちぎれた肉体がダンジョンの暗がりへ消え去ってゆく。
後衛が矢の速射を放つ。
しかし、その矢の全ては体表に傷をつける事もなく弾かれた。
前衛兵士達は矢が弾かれたのを見るや、気勢を上げ剣や斧で襲いかかる。
「「「「オォォオオオオオオオ!!」」」」
ガガガ! ガギン ガツ! ガリリ!
ゴーレムの体の表面で火花を散らす、金属の武器。
ズン ズズン ブォォオオオ!! ドドゴン!!
ブォオオオ! ドゴン!!
ゴーレムの腕の一振り毎に、数名の潰れ砕けた兵士が宙を舞い、体を回しそのまま裏拳で次の兵士を薙ぐ。 そして、石戸から、次々と兵が飛び出しては、旋回するゴーレムの腕で
打ち飛ばされていく。
先に石戸を潜った兵士達が、ゴーレムの下半身に取り付き必死に動きを止めようと縋り付く。
しかし、何の抵抗も感じないのか、完全に無視されてた状態だ。
ズン、ズズン、ズン
闇の中から重い足跡が近づく。
必死に取りつく兵士たちの顔が絶望に歪む。
ズン ズズズン ズン
今戦っているゴーレムとほぼ同じ形状のシルエットが2体。
ダンジョン側の増援が、ゆっくりと体を揺らしながら闇の中から現れた。
石戸の周辺は、松明の灯が血の海をヌラヌラと照らす。
千切れた身体はゴーレムに踏まれ、石臼で挽かれた様にペースト状になっていく。
そんなゴーレムがもう2体合流すると、これまで抗っていた兵士が一人、また一人と遁走を試みる。
その度に、踏まれ、捕まり握りつぶされる。
ある兵士は、腰を掴まれグジュリと潰れる音とともに同胞に投げつけられる。
その体が千切れ飛び、散弾の様に他の兵士を無力化していく。
数人の兵士が捕まり、石戸の中に投げ込まれ悲鳴が上がると、一気に兵士の流れが変わった。
息のある兵士を執拗に叩き潰すゴーレム。
床に擂り込む様に撫で、踏み潰す。
その隙を見計らい、まだ動ける兵士が石戸を抜け地上を目指す。
発狂したような笑い声や叫び声が響く暗闇の先、外の世界の光が見えてくる。
そして、命辛々(いのちからがら)逃げ戻った地上は更なる地獄だった。
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