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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 王国の食指
120/256

91話

今年は感想・コメント・評価など誠にありがとうございました。

もう一話行けるかな・・・・

 元村長の激白、「隣国の軍がすでに国境を越えた」との話を聞いて、今日で4日目。

周りのみんなが忙しく過ごす中、面倒な来客から逃げるようにセルジオはいつもの様にダンジョンに潜り、ドロドロになっては、とても来賓のお相手できる状況にないと夜の来訪希望も断り続けそろそろ逃げ切れないと覚悟を決めた矢先、ついに隣国の軍が現れた。



 セルジオは、石鋤を肩に、長い石敷きの坂を全力で下っていた。


 一往復目のダンジョンから出てきた折、男衆から隣国の軍影が見えたとの連絡を受け、何時もの様に遺体を預けて、すでに下見に向かった一同に追いつくべく走った。



 「セルジオ様馬を!!・・・・・」

 屋敷近くで、メイドの声が聞こえた気がするが、馬に乗ったことが無いのでスルー。



 「セルジオ様!!私、王国から・・・・」

 豪華な馬車に乗った、可憐な少女が、車窓から身を乗り出してこちらへ叫んでいる姿が見えた気がした。

 ・・・・たぶん、色々面倒になるから同じくスルー。



 「セルジオ殿!!商工会・・・・」

 あぁ、もう随分昔の気がする。

 ニーニャと一緒にいた鑑定を頼んだ商人だ。

 ・・・・でも今はそれどころではないので、同じくスルー。



 そして、避難してくる村人&取引に来ている商人・貴族、王国兵遺族の人の波が、大量の荷物を持って何故だかセルジオ宅方向へ避難してくる。

 その人混みを掻き分けて、迂回し、ようやく湖を見下ろす高台に辿り着いた。



 ・・・・


 湖を見下ろす、元村長、クディ、ジード、それにアレクセイ。

 セルジオが汗を袖で拭いながら、彼らと並ぶ。


 「ハァハァハァハァハァ・・・・状況は?」

 セルジオが息を切らしながら尋ねた。


 「あれじゃ、そろそろ始まるかのぉ」

 元村長も沈痛な声を上げる。


 湖畔のボトルネックの様にすぼまった場所に軍を展開させる王国軍に対して、蛇の様に長い隊列で押し寄せる隣国の軍。


 その先端が向こう岸で今まさに接触しようとしている。


 「野暮じゃなぃ? 使者も立てずなし崩しに始まったみたい・・・・」

 クディも険しい視線で対岸を見ている。


 対岸から微かな人や物を打ち据える喧騒と怒号が聞こえてくる。


 「なんか変じゃないか? 普通だとあんな力押しの攻め方をするもんなのか?」

 隣国の兵士たちが、まるで後続の隊を恐れるように前に前にと押し寄せる。

 遠目からではよく分らないが、切り立った湖畔の斜面を幾人もの隣国兵が、意味もなく湖に落ちている様に見える。

 「あ、また落ちた・・・・あいつら何やってんだ?」

 ジードが不愉快そうな声をだす。


 「後方、あそこ・・・・なんか嫌な気? 魔力を感じます」

 アレクセイが目を凝らし、隣国の軍の遥か後方を指さす。

 「本当ね何か訳ありっぽいけど、こうなっちゃうと、そんな事どうでもいいわねぇ」


 幾本もの旗がはためく指令幕舎らしい場所が辛うじて見える。


 「隣国の兵、2万を超えてるわねぇ・・・・ 本気で取りに来てるわよ」

 迂回して王国軍に迫る部隊が見える。

 

 「グレちゃんなら、もう少し良い戦いしそうだけど。

 今の王国の駐留隊長が頭じゃたかが知れてるわね・・・・」


 クディが渋い顔で、王国軍を眺める。

 王国の姫がこちらに到着したのと入れ替わりで、もう彼らはこの地に居ない。

 寄せ集めの兵達だったとしても、グレゴリアルの見せた、有事の際の立て直しの早さと、日々の付き合いで気心が知れた兵士達がいないのは何とも心さびしい。


 湖畔で迎え撃つ王国兵、一刻一刻、兵の厚みが薄くなる。

 「潮時かのぉ」

 元村長が踵を返す。

 「もうそろそろ村人の避難は終わった頃かな・・・・」

 ジードが村の方を見ると、一筋の白煙が空に昇っていく。

 「退避完了の狼煙があがったわねぇ、あの将の下で、兵はどれくらい残るのかしら・・・・」

 クディがキツイ事を言う。


 「さて、私はぁ交渉役で村に残るから、皆は屋敷に戻ってなさぁい」

 「そうはゆきません! 命の恩人であるクディ殿を置いて行っては人々が許しても神が許しません!」

 ・・・・当てになるのかどうか怪しいアレクセイも残るという。

 セルジオが心配そうにクディを眺める。

 クディが邪魔だから行けと、手であしらい追い払うしぐさをする。


 「そうね、あなたは王国関係者といえ、教会関係者でもあるものね。じゃ、一緒に修羅場にゆきましょ♪」

 変態紳士がアレクセイの肩を抱き、見つめあう。

 「一緒に苦労を分かち合いましょうねぇ?」

 セルジオの腕に鳥肌が立つ。

 『顔近い!近い!』と思わず叫びたくもなるが、その視線の先のジードを見る。


 クディの担当はアレクで決まりと、ジードは憑き物が取れたような軽やかな足取りで、振り返りもせずに屋敷に向かって走っていた。 

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