89話
「無事戻ったようじゃな」
異臭と煤塗れの三人はアレクセイと分かれ屋敷に戻り、湯浴みでサッパリ身繕いの後、元村長がセルジオの居る執務室を訪れた。
セルジオと元村長は、打ち合わ用のソファで膝を突き合わせていた。
「クディさんの機転で何とか戻れました」
「うむ、先ほどクディの口からも聞いたが、下の状況は酷いらしいな・・・・」
「酷い? あぁ臭いですね・・・・」
セルジオはウンウンと頷きながら、あの臭いは酷いと顔をしかめる。
「・・・・いや、確かに酷い臭いではあるがの、そっちじゃなくて生き残りの話じゃよ」
元村長は噛み合わない話に眉毛を指で撫で、話を戻す。
「それと、アレ何とか氏も除霊に失敗したようじゃの・・・・」
「あぁ、はい、途中で彼は変になってしまって・・・・
クディが助けなければ、今頃焼死体がもう一体増えてたところですよ」
「結局、教会は役に立ちそうか?」
「? 何が何に役に立つか分らないですが、お墓に祈りを捧げてくれるのは良い気がします」
王国兵の、身元が分からないほど磨り潰された遺体は、セルジオの両親が眠る墓所周辺に埋葬されている。 教会関係者は、救護所の治療と世話、随分数の増えた墓所の朝夕の祈りを捧げてくれていたのだ。
「そうか・・・・セルジオの感も捨てたものでは無さそうじゃから、そのように計らおう」
「あ、クディは? どうですか?」
「うむ、先ほど見てきたが肋骨は何本か折れておるの、腕にも罅が入って居るからしばらく安静じゃ」
コンコン「入るわよぉ」ギィ・・・
「おぉ! クディ殿、寝ておれば良かろうに」
ジードに肩を貸してもらい執務室を訪れたクディは「こんなケガ、唾付けてればなおるわよぉ」などと言い、冷や汗を掻きながらソファーに腰を下ろす。
後ろには、レシアとニーニャ、そしてレラさんがティーセットを持って執務室に入ってくる。
「まぁ、みな集まったから丁度良いの。
セルジオ達がダンジョンに潜っている間に、動きが有ったので伝えておきたい」
居住いを正し、元村長の話を聞く。
「3点だの、最初は・・・・王国が再び授爵の使者を寄こしおった。
今日は村に下がって貰ったが、数日内に当屋敷で受け入れねば、ならんじゃろうのぉ」
本当に困った風に茶を啜る。
「・・・・その感じだと、また面倒事かしらぁ?」
「うむ、三番目の姫を使者として送りつけてきての・・・・」
「くぁ、何なんだそれ?
もしかして、都に連れて来るまで戻るなとか言われてるパターンか?」
ジードが思わず口を開く。
「その、もしかしてが、そのまんまじゃ。まぁ、その件はセルジオの胸三寸な訳だがのぉ」
元村長他、みんなの視線がセルジオに向く。
「供をして来た近衛兵と従者の差配はこちらで何とかするわい」
涼しい口調で元村長が告げた。
「へ? あれ? 俺が何とかするんですか?」
「まぁ、任せた。方針を決めたら呼んでくれれば良い」
セルジオがそんな面倒な事は無理!と頭を抱えるのをスルーして、元村長がニーニャに話しかける。
「次は、ニーニャ殿関連かの・・・・」
「はい? 私ですか?」
「うむ、都の商工会ギルドは判るかの?」
「えぇ、共同組合みたいな組織だけど、それがどうしたの?」
ニーニャの表情が険しくなる。
「ニーニャ殿が世話に成っておった、行商人のキャラバンがあったろう?
たしか、代表が・・・・そう、マルコとか言ったか・・・・」
「あぁ、マルコのおじさんね・・・・それで、なんて?」
イライラしているのか話を急かす。
「商工会ギルドが、マルコを通じてお前に資産管理(銀行)ギルドの設立を要請してきておる。
ニーニャ殿だけが荒稼ぎする中、都ではかなり経済がおかしな事に成っておるらしい。
だからか判らんが、ニーニャ殿に、そのギルドの初代頭取になってくれないか?というものじゃった」
ニーニャは滅茶苦茶めんどくさそうな顔をする。
「最後が一番面倒な話だ・・・・
隣国が宣戦布告の書簡を、都の太守に送り付けたようだ・・・・」
「「「「「・・・・」」」」」
その場の空気が凍りついた。




