88話
黒く酷い臭いの煙がセルジオ達と一緒に、ダンジョンの中から出口に向かって上がっていく。
意識をとり戻したアレクセイは、火を掛けたところから意識が曖昧で良く覚えていないと言うが、歩けるのならチャッチャと歩けと、クディに肩を貸すセルジオに石鋤で追われながら先を歩く。
次第に外の明かりが近くなり、流れ込んできた新鮮な空気が肺の中を満たす。
「はぁ・・・・戻って来れた・・・・」
セルジオはクディを外に押し出すと、外のざわめきが聞こえてくる。
オオオオオオオ!!!!
入り口を遠巻きに取り囲む多くの人々が歓声を上げる。
警護兵や教会関係者、貴族の遺族に男衆が、セルジオ達に駆け寄ってくる。
腐臭と煤けた酷い臭いが染みついているにも関わらず、彼らは一同の背中を叩き、良く戻った声を掛け喜んでいた。
王国軍突入後、複数でダンジョンに潜り、錯乱せずに無事生還できた王国関係者は初めてだったからだ。
「クーリンディアド!!」
ケレブレシアが凄い形相で駆けてくる。
「あらぁレシアどうしたのぉ? そんなに血相変えて走って いい女台無しじゃない?」
レシアは打撲の痛みを微塵も見せないクディに飛びつき、きつく抱きしめる。
「心配したんだぞ!! なんだその言いぐさは!」
「・・・・いっ、今はそんな事より、帰って打ち合わせよ!」
さすがに青痣&痛めた肋(たぶん骨折)を万力の様に締め付けられ、次第に死相が滲み出てくるクディ。
「アレクセイ様ぁ!!!!」
遅れてニーニャとジードが駆けてくる。
シュバッ!
「少し苦いプリンだけど、簡単には渡さないわよ!」
クディは、ここぞというタイミングでレシアの腕から逃れ、アレクの後ろに回り込み彼をキープする。
「独り占めなんて許さないんだから!!!」
ニーニャがアレクに取り付こうと、熊の様に両手を挙げてクディに挑む。
「見苦しいわねぇ、強欲商人! 彼と私は戦友なの! 深い絆で繋がってるのよぉ! しっし!」
アレクを抱き寄せ、足で「しっし!」とニーニャを追い払うクディ。
アレクセイは微かでも記憶があるのか、苦虫を噛み潰したような表情で引きつった笑顔を見せていた。
「セルジオ、お前も大変だな・・・・」
ジードがセルジオの元にきて労う。
「クディさんにも色々あるんだよ、あれでも」
セルジオが感慨深げにつぶやく。
ジードもクディは交渉事で大変なのは知ってさと、勘違いして頷く。
「で、あの司祭、まだ居るのかな・・・・」
「こっちに、教会建てろって言ってきてるらしいよ。 そこの司祭に成るんだと・・・・」
「ほんとか? それは助かる!」
「何が、助かるんだ?」
「俺が、クディから解放されるだろう?」
「そうなのか? アレクセイはデザートで、お前はパンだとか言ってだぞ?」
「俺、パンなのか? 主食じゃないか? それって・・・・」
地面に手を突いて俯くジードと並び、クディとニーニャを眺めているセルジオだった。
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