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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第二部 王国の食指
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87話


 セルジオのが激しい鼓動と呼吸音が、彼の頭蓋に響く。


 ドドドドドドド


 なかなか鼓動が落ち着かない。


 セルジオの肩に何かが触れる。


 「大事な事は早く言えと、言ったであろうが・・・・」

 薄目を開けると、口から血を流しているが、爽やかに笑っているクディの姿が飛び込んでくる。

 「クディさん! よく無事で!!」

 セルジオが駆け寄り、肩を貸す。


 ゴーレム拳が触れはしたが、制止がギリギリの所で間に合ったのだ。


 「咄嗟に後ろに跳んだが、石戸で逃げれずにな、寿命が100年程縮んだ気がしたぞ」

 普通のダンディな紳士が目の前に居る。


 「・・・・クディさん?口調が違うのですが?」


 「何を言って・・・・何言ってるのよぉ♪


 ・・・・


 ハハハハハ、当主殿ばれてましたか、ハハハハハ」

 カラカラと笑う紳士と共に、石戸の先、アレクセイの所まで行き、戸を閉め安全を確保する。


 「アレクセイ殿は目覚めんな・・・・」

 クディは彼の首筋で脈を測り、気を失っているだけと判ると、その場にドッと座り込んだ。

 相当酷く石戸に打ち据えられたのか、片口から背中の上着が擦り切れ毛羽立っているのが判る。


 「当主殿、少し話をしても良いか?」

 セルジオはアレクセイの背嚢に残る酒瓶を取り出し、クディの上着を脱がせる。


 肩口から背中、脇腹にかけて赤紫色になっており、特に肩口の擦過傷さっかしょうからジワリと血が滲んでいる。

 「よかった、外傷は知れてます。骨はどこか折れているかも・・・・ヒビは入ってそうですね」

 セルジオは酒を掛け、消毒をする。


 「あぁ、見てくれて助かる」

 クディは沁みる痛みには顔色を変えず、瓶から酒を煽る。


 「で、お話とは?」

 セルジオも腰を下ろし、彼の話に水を向ける。


 「うむ、年寄の昔話と思い聞き流して欲しい。


 当主殿にとっては随分昔の話になる。


 私は祖国の近衛兵を預かっておった。

 あるとき疫病が猛威を振るい、随分仲間が死んでしまった。

 

 弱り目に祟り目、そんな国力が減衰したところへ隣国が戦争を仕掛けてきてな。


 その時、彼女の父上は既に疫病で亡くなっておった。


 私は、ご母堂からせめて命だけでもと、まだ幼さの残る彼女を託され。国を出た」


 クディの表情が歪む。


 「程なくして、祖国は滅んだと聞いた。

 その時からしばらく、何故仲間と一緒に逝けなかったかと悔いたものだ。


 彼女が美しくなるにつれ、私が張り付いていては何かと拙くてな。


 みなまで言わんが、長く一緒に居れば、いろんなことも起きよう。


 その頃からあの口調を使う様になった。

 もう数百年、オカマをやってるとどちらが本当の自分かもう分らんわ、ハハハハハ・・・・


 叶うか判らん家の再興、生き残った仲間の救出、長い年月旅を続けておった・・・・

 そんな折、疫病が蔓延した時期にあったという、幽鬼の行進の噂話を聞いて、この地を訪れたのだ」


 遠い目をするクディ。


 「だから、彼女に手を出したらどうなるか分るわよねぇ」


 いつもの口調に戻るクディ。

 彼の視線の先、アレクセイが頭を振りながら身を起こそうとしている。


 「今の話は、お・と・こ同士の、ひ・み・ちゅ♪」


 『どおりで、政治向きの話にも明るく、腕の立つオカマなんだ』

 セルジオは何となく引っ掛っていた靄が晴れていくように納得できた。


 それにしても、ジードを追い回す姿、アレクセイに逆上のぼせるクディも本気に見える。

 どちらが本当なのか分からなく成るセルジオだった。

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