84話
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セルジオの背後から伸びた手が、彼を後ろに引き下げる。
クディが引き戻したのだ。
いつものふざけた雰囲気は微塵もなく、鋭い目つきで矢を番え、こちら側に出てくる物が無いか射抜くように睨む。
死霊憑きの手が空を掻き、何かを掴もうともがくが、隙間が狭く通り抜ける事が出来ないでいる。
・・・・
「・・・・あれ以上は無理みたいね、あせったわぁ」
しばらく見守り、クディが冷や汗を袖で拭う。
狭い石戸の隙間から、幾本もの腐った手が突き出ており虚しく空を掻く。
殆ど千切れかけた手首の腕、潰れたもの、まともな形状のものは少なく、お互いを押し退け、少しでも奥に居るセルジオ達を捕えようと鬩ぎ合う。
時折隙間から覗く白く濁り腐った瞳と目が合う。その死霊憑きの肩先が見える程、身を押し込んでは搔き出されていく。
しかし、そんな20本近い腕が鬩ぎ合っているが、石戸が微動だにしない。
『どんだけ重いの?』セルジオは素朴な疑問を持つが、アレクセイが気を取り直し口を開く。
「私に任せて下さい!」
彼は、ベルトに挟んだメイスを掲げ、除霊の聖言を唱え始めた。
・・・・
・・・
アレクセイの聖言が残響音を残しながら延々と唱えられている。
かれこれ一刻程。
なんの変化もない。
ワサワサ元気に蠢く、ゾンビ手。
暇なセルジオは死臭が漂う中、お弁当を広げサンドイッチを食んでいる。
「あなた、よくこんなとこで食べれるわね・・・・」
「ん? いずぼのごどで、(ごっくん)いつものことですから」
「さすが、セルジオちゃんというところねぇ」
クディも腰を下ろし、アレクセイの後ろ姿をウットリ眺めている。
更に一刻程が過ぎた。
「「・・・・」」
聖言の詠唱が途切れる。
アレクセイが酷く情けない、涙目で振り返り一言。
「除霊、無理みたいです」
二人から、やっぱりそうよね、的な空気が漂う
ゾンビ手の元気よく蠢く音だけが響いていた。




