82話
結局昼からダンジョンに潜る事になり、セルジオはいつもの装備を整える。
カンテラは随分しっかりした物を手配して貰い、油を入れ使い方を確認する。
縄を切る以外、使う機会がなかなか無い短剣を腰のベルトに差し、元村長の居るという厨房を訪れた。
「私が行くから!忙しいクディは他の仕事してて!!」
ニーニャの声が何故か厨房に響く。
「何言ってるのぉ? 色ボケ商人!! あなたが行っても何の役にも立たないでしょ!?」
「色ボケオカマに言われたく無いわよ!! ジードはどうするの?!」
「彼はパンなの! 食べないと死ぬの!
でもアレちゃんはプリンなの! しかも最後の、わ・た・しのプリン!!
脂肪の塊二つも持ってるんだから、欲張らないの!!」
「きぃぃぃ!!! 私の逆ハーレム補完計画に重要なピースなの!!」
謎の計画が進行してる様である。
なんだか判らない奇声を上げ、オカマと商人が言い争っている側で、我関ぜずの元村長。
足元をインプがちょこまかと食材を運び、厨房の手伝いをしている。
「お前、最近見ないと思ったら、ここに居たのか?」
セルジオがインプに声を掛けると、相変わらず良く解らない「ピギィ」と返事をしてメイドの元に走って行く。
女性陣に「イプちゃん」とか呼ばれ、結構可愛がられているようで、なんだか周りに溶け込んでいる。
どこかの屋敷妖精と同じポジションを獲得してるようだ。
「あぁ来たか、こちらも用意できたぞ」
元村長がセルジオに気が付き、ビチビチに膨らんだ背嚢をポンポンと叩きながら微笑む。
「これが、油ですか?」
「いや、油ではない。酒だ!
しかも恐ろしく酒精の強い酒での、簡単に火が付く。
樽に有った酒を、割れやすい瓶に詰めなおさせた。
これだけあれば、景気よく燃やせるぞ、ハッハッハ」
何故か楽しそうな笑い声を上げる元村長の呼気が酒臭い。
「浴びるとなかなか消えぬから、気を付けるのじゃぞ! それと・・・・」
指輪箱に入った二つの指輪と、弓矢一式の包まれた布包みを指さす。
「ニーニャ殿からオークション出品予定の品から回収しておいた、持ってゆくといい。
指輪は【 守りの指輪 】で精神を強くし、毒や麻痺を寄せつけぬらしい。
弓はクディ殿が得意らしいからの、結構良い物じゃで使うてもらうと良かろう」
「・・・・ありがとうございます」
俺の分はお酒だけ?と、少し残念に思うセルジオだった。




