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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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9.2話


 数日後、村の名役、猟師や行商人の一行が村長宅の広間に集まっていた。


 村長が依頼したマルタは結局当日中にターニャとは連絡が取れず、人伝手ひとづてに伝言を頼んだのだが、翌日の夜には彼女から文が届いた。


 文は誰かが代筆したのか、達筆ではあるが文字はひどく崩れている。

 村長はオッドが猟師達に説明をしている間、文面を何度も読み返す。



 ・・・・


  ミオールへ

 伝手を頼って、今帝国にいるの、直ぐには戻れないわね。


 周辺の村の病の治療方法、病名、原因も不明。

 帝国も、同じ病気が蔓延してるけど、少し落ち着いてきたみたい。


 病気の根源が魔物由来ではない所までは突き止めたけど、あと少しの所で原因が掴めないの。

 何者かが作為的に隠ぺいしているわ・・・・

 ミオールも気を付けなさい。


 私も今まで見た事のない病気よ。

 人とお金の流れを追ってみて、何かしらの手がかりが掴めると思うわ。


               ターニャより


 ・・・・


 「・・・・もう動て居ったか、さすがじゃの」

 花屋の婆さんから文を見て独り語ちる村長は、息子夫婦が話し込む広間を眺める。


 必要になりそうな薬草とその調合に付いてや、近隣の村への救援や疫病の隔離方法など多岐に渡る話があちこちで聞こえる。


 特に話の中心に居るのは、この村唯一の医師であり、次期村長を期待される人物、村長の息子である。


 「レイクウッド先生、不安がっている村人は教会に集い日々祈りを捧げておりますが、流行り病をあの狭い教会でお引き受けするのは困難です・・・・シスター達を手伝いに向かわせる事は問題ありませんが・・・・」


 「この辺りは元々魔物は少ないからよぉ・・・・偶に湖に浮かんでるくらいだな・・・・

 あぁ、気付け用の薬草の生えている場所なら幾つか心当たりはある!」


 「早馬で走って行かせましたから、いくらなんでももう王国には付いてるはずです。

 各村からの親書ですし、重要性は承知しているはずです。

 盗賊や不慮の事故も憂いも考え、複数名を走らせましたし・・・・」


 レイクウッド医師は、この村で患者が出た場合、教会の一部を隔離施設として使用したいと依頼をするが断られ、代替地を山を所有するセルジオの両親に依頼していた。


 萎れたシロツメクサの花環を部屋の隅でモジモジと手慰みにしているリリルが見える。

 その側ら、セルジオがリリルに話しかけていた。

 重要な打ち合わせの場所だが、セルジオは、どうしても何か手伝いたいと付いてきたようだ。


 学は無いが心根の優しいセルジオ、そのセルジオと仲の良いリリルの面倒をよく見てくれる彼の幼馴染のジードにも村長は目をかけていた。



 ・・・・


 レイクウッド医師が会場を滞りなく取り仕切っているので、何かあればと声を掛けた村長は独り執務室に戻り、過去数年に渡る村に関わる金の流れに着手した。

 とはいっても、鄙びた山村で大金が動くこと多くは無い。


 ・・・・湖畔の道の崩落後の保全

 ・・・・上水用水道の老朽化による破損、その応急工事

 ・・・・落雷出火による見舞金

 ・・・・村人による周辺集落での喧嘩による違約金(立て替え)


 インフラの整備にも満足な投資が出来ず、村に繋がる主要な道を優先するだけでいっぱいいっぱいだ。

 過去の帳簿であるが、見返すだけで村長の気持ちは沈んでいく。


 書棚から取り出した革用紙の束を取り出し、紐を解く。

 人の流入出に関する帳簿書類を眺める。


 緩慢な人の流れ、出入りする村人も見知った物ばかりだ。

 唯一特異な点と言えば、数年前に都落ちしてきたバルザード一家とその使用人たち。

 家長と長男、幾人かの使用人が頻繁に出入りし始めるのは村に居を構えてから直ぐだった。

 そもそも変わった人の出入りがあれば、噂好きのターニャ婆さんが気が付かないはずがない。


 金貸しの商売と言え、街の経済に大きな影響を与えているのは確かだった。


 若者の結婚率の増加。

 先立つ者が無く借金により挙式などを上げ、独り立ちする者が増えている。

 それに伴い出産率も増えている。


 家や店の増改築、補修工事の増加。

 大工の流入も頃で不自然ではない。


 訴訟や調停依頼の書類を取り出し、眺める。

 借金返済に関する訴訟が随分増えているが・・・・

 「ある程度の資産を持ち込み、村の経済が良く回るようには成ったが、別段目くじらを立てるようなこともないな・・・・」

 幾つかの高利に対する苦情は見受けられるが、それも異常な物ではない。

 証文もしっかりと交わされている。

 取り立てが厳しいのも、そもそも資産を持たない者が夜超しの日銭を持つ事も少なく、狭い村でまとまった収入がある時などは直ぐに噂になる。

 それを取り立てられたとしても、しかたなく思えた。


 当初からバルザード家の面々は、在住村民の知らない人脈をもち、王都や近くの村々、果ては遠く帝国まで出入りしていた。

 バルザード家の家長からも、返済期限の迫った証文が周辺地域に点在している為頻繁に屋敷を空けることを聞いているし、証文自体も見せてもらっていた。

 根拠と行動に怪しい所は無いように思われた。


 「とはいえ、一番疑わしいのはバルザードの家の者か・・・・一度、話を聞いて見る必要がありそうじゃの・・・・」

 しかし、村長という立場上、疑わしいといえ証拠がないにも関わらず勝手に決めつけて魔女狩りをするわけにはいかない。


 だが村長は、再びターニャからの手紙を読み返し、事に臨む決意を露わにした。

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