78話
昨日、ダンジョンから戻ったセルジオは酷い目にあった。
死霊憑きの遺体をくっ付けたまま戻ったのはいいが、しがみ付いたそれが離れなかったのだ。
急遽隔離されるように他の者から引き離されて、刺股で引ん剥かれ、水垢離の様に頭からザブザブ冷水をかけられたのだ。
冷水は、ただの水ではない。
霊験あらたかな聖水というものである。
本来、小瓶に分けた少量でもいろいろ浄化できるという、優れものの便利水なのだが、そんな量では焼け石に水である様に効かなかった。
で、聖職者集団がとった方法は、樽10本の聖水。
聖水の大安売りである。
それを柄の長い杓で、祭りの力水のようにかけてくる。
怖いのは分るが、一緒にセルジオにまでバシバシと叩き付けるように聖水をかけられたのだ。
そこで、変化が訪れた。
黒い靄の一部が樽に放たれ、その中に吸い込まれていく。
樽の聖水が、水の腐った臭いに変わる。
セルジオは寒くて唇が紫色になり、ガタガタ震えながらも耐えている。
ザザァ! バシャァ!
樽8本目で悪霊憑きの上半身がゆっくり滑り落ちていく。
聖職者がどよめきたち、「聖水が効いたぞ!」などと叫びながら喜んでいる。
「いやいや、冷水で寒くて手が悴んだ、だけ?」
そう思うセルジオだった。




