71話
死臭、赤錆の浮いた古鉄のような臭いに糞尿と腐った肉の強烈な刺激臭が混じったもの。
音のする方向には、そんな臭いが濃く淀んでいた。
セルジオは、まだ踏み込んでいない回廊の奥へと進んでゆく。
足音とその残響音が重なり、いつまでも響いているように感じられる。
ガシャン ドサ・サ・サ・・
音源が近くなる。
セルジオがカンテラを高く翳し、音源らしき方角を凝視する。
まだ距離があるが、何の影が動く。
ガシャン ドサ・サ・サ・・
カンテラの弱い灯ではまだ何かは解らない。
しかし動く何かがいる。
セルジオは息を呑み、慎重に進む。
いつでも後ろを振り返り、全力で駆け出せるようにと・・・・
そして彼の歩みは、いつの間にか足音をさせない摺り足に変わっていた。
音を気にするセルジオだが、ダンジョンは光のない闇の世界。
カンテラの灯で、セルジオの位置が丸分りなのは頭からスッポリ抜けている。
影が動いている。
何だか判る位置まで、迫れたのは良いのだが、結果は最悪である。
ガシャン ドサ・サ・サ・・
冒険者風の死体が立ち上がり真後ろに激しく転倒する。
なぜ死体と解るのか?
首が前から見えないほど真後ろに垂れ下がっている。
背骨はグニャグニャに砕けているようだ。
さらに、腹が破れ内臓が噴出している。
この状況で、まず生きているはずがないのだが、それが動いているのだ。
死体が床に倒れ、這うように蠢いていると上半身と頭が正常に近い位置に収まる。
位置が収まると、肘から先が砕けた右手と、まだ原型が残る左手を床につき、大きくうなだれた頭をぶらぶらさせ立ち上がる。
下半身は上半身に構わず立ち上がるのだが、大きく前屈した状態でそのまま歩こうとする。
当然、だらりと垂れ下がる異常な前屈をしたまま歩けば、足が胸を蹴り手を踏む。
上手く歩けないのが判ると立ち止まり、腐れた背筋に力を込めて上半身を起こす。
ブォオォォ・・・・
勢いよく腰の上に起き上がる上半身。
胴の先の頭が攻城兵器の投石機の石のように前から後ろへと流れてゆく。
死体は頭の反動を殺し切れず、腰から上が後ろに折れ曲がり、後方宙返りのように下半身を引き連れ地面に身体を叩き付ける。
ガシャン ドサ・サ・サ・・ その音である。
叩き付けられた衝撃で黒い何かが抜けるが、すぐさま何かが死体に取り憑きビクビクと体を動かす。
その繰り返しの音が聞こえていたのだ。
「や、やべぇ・・・・ゾンビ? グール? どっちにしても拙いでしょ?あれはぁ」
誰も居ないのに思わず声が漏れてしまう。
「ま、まだ気付かれてないから、放置方向でいいよな」
セルジオが後退りし、その場を離れようとした時、その影の動きが変わった。
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