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いつもダンジョンに居ます  作者: ねむねむぴよ
第一部 一章 墓守始めました
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9.1話

セルジオ家とミオール村長の関係 補完回です。



 約二年程前の話である。


村長のレイクウッドは、いつものように村の作付と収支計算、治める税金の準備に各相談事の陳情を執務室でこなしていた。そんな折、不穏な知らせが届いた。


 「そ、村長! 周辺の村々で流行り病が猛威を振るっているらしいです!」

 行商人の話を聞いた初老の男、世話役のオッドが駆け込んできた。


 「・・・・ひろがりそうか?」

 「・・・・薬の類が効かないらしく、衰弱して亡くなる者が後を絶たないと・・・・」

 「うちの村は大丈夫か?」

 「はい、今の所・・・・自粛傾向にありますが、周辺の集落との人の流れは止められないかと・・・・」


 「この村の流行も時間の問題か・・・・」


 村長は、本棚から帳簿を取り出し予備費を計算し始める。

 そして、深い溜息を付く。


 日ごろから遣り繰りをして非常時の予算を捻出してはいたが、雑事で小出に使う事の多かった。

 これまでが悔やまれるが、村長の一存で使える予算は、ほんの僅かな額しか村にはなかった。


 「窮状は既に、王国へ知らせてあるのか?」


 オッドに顔を向け村長が訪ねる。

 「・・・・多分としか、行商人が仲間を使い王国へ知らせを送ったとしか聞いてませんし・・・・」

 陰鬱な空気が執務室を満たす。



 ギィ・・・・


 「じっちゃん!」

 幼子、孫のリリルが、空いていた執務室の戸から入って来た。


 聡い孫は陰鬱な空気を感じとり二人に尋ねる。

 「けんか? けんかは め!よ」

 最近外で遊ぶことが多くなったリリルは、シロツメクサの冠を手に、拳を作って振り下ろす仕種が可愛い。


 「うむ、喧嘩などしておらんがのぉ、そうじゃお姉さんになったリリルに使いを頼もうか・・・・

 お父さんとお母さんを呼んできてくれるかの?

 村長からの急ぎの用事じゃと言ってくれるか?」


 「うん、おねえちゃんなの・・・・のじゃ! わかった! のじゃ?!」

 お爺ちゃん子のリリルは、祖父の口調を無理やり真似、奇妙な話し言葉となっていた。


 「『のじゃ』は、いらんのじゃかの?」


 「にへへ♪ うん、わかった!」

 リリルはてとてとと、覚束無い足取りで部屋を出てゆく。


 「利発なお孫さんですな・・・・」

 少し和んだオッドだが、表情は再び厳しいものに変わり、村長を見る。


 「ハッハッハ、自慢の孫じゃよ・・・・ さて、そなたには猟師の所へ使いを頼んでよいか?」


 「はい、それでなんとことづけを?」


 「猟師仲間への薬草の採取依頼と、王都への窮状の報告と嘆願書の送付、それに周辺の魔物に関する情報収集じゃの」

 「・・・・魔物ですか?」

 「うむ、薬が効かぬ病であれば、祈祷師辺りが直しておろう・・・・

 それが出来ぬのであれば・・・・魔物由来の毒か呪詛辺りが疑わしい。

 マタギの連中であれば、病魔をまき散らす魔物を見た者も居るやもしれん。

 さすれば、魔物を狩り殺せば、収束する可能性もあろうて・・・・」


 「なるほど、承知しました。 いって参ります」

 オッドは心当たりのある、この街に定住する猟師の下へ向かった。


 オッドを見送り、執務室に残された村長が深い溜息を付く。


 「・・・・しかし、他の村の村長も、これくらいは気が付こう・・・・

 それでも原因が掴めぬとは、根が深いかもしれんな・・・・

 マルタ! マルタはおるか?」


 村長は執務室の扉を開け、声を張る。

 ほどなくして賄いの女性が、いそいそと執務室に入ってきた。


 「はいはい、そんなにおらばなくっても聞こえますよ、洗濯干しが途中ですから手短にお願いしますよ?」


 恰幅の良いエプロン姿の女性は、気忙しいのか語気は荒いが、にこやかに告げる。


 「そう掛からん、花屋のターニャに儂が呼んでいると伝えてくれば良いだけじゃて」


 「ターニャさんですか?・・・・そう言えば最近姿を見ませんが、ようござんしょ・・・・

 私が遅く成る様でした、洗濯物頼みますよ?」


 「む?・・・わ、わかった・・・・しかと頼むの」


日が傾きはじめて、書類から顔をあげる。

新たに結婚した者、出生届、死亡届、それらを現在帳、過去帳に書き写し書類を収めた。


 結局、その日はマルタは戻らず洗濯物を取り込みながら皆の帰りを待つ村長だった。

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