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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
86/203

名前

「アファナーシー・ニキータがあなたやセスを狙っているようです」

「わたくしだけではなく、セスも?」

「彼の知識は貴重です。それに何より、奴の策を何度も突破していることが気に入らないのでしょう。高額な懸賞金が、二人にはかけられています」

 百合は思わず声を出して笑った。

「笑い事ではありません。これからはどんな輩に狙われるかわからないんですよ?」

「そうね。でもわたくしは大丈夫。セスにも注意するよう文を送るわ」

 むしろ一番狙われるのはセスだろう。彼は優秀な錬金術師だが護衛がついているわけではないし、必要ならどんな場所にでも赴く。

「実は以前、セスも誘ってみたんですけど断られました」

「あら、残念ね」

 楽しげに笑う彼女に、フェルディも目を細めた。

「なので、全て片付いたらとりあえずもう一度声をかけます」

「諦めないのね」

「はい。なんだか気に入ってしまいまして」

「・・・・あなた、本当に海賊みたいね」

「いえ、海賊です」

 しばらく互いに見詰め合い、そして同時に吹き出した。

「あなたも一緒に行きませんか。ふかふかのソファーと美味しいお茶と、珍しい花と、食事。世界中のお酒も手に入りますよ」

 それはとても素敵なお誘いだった。

「素敵ね。でも」

「今は答えを聞きたくありません。わかっていますから」

 彼女が断ることくらいわかっていた。それでも誘ったのだ。

「だから、またいつか同じ文句で誘いますから、その時はあなたの未来のために考えて下さい」

 そっと顔を覗き込まれて百合は瞬く。日の光の下では藍色のような瞳が、今は闇に近い色をしている。そこに映る己は、どこまでもか弱い印象を抱く。

彼には百合がそう見えているのだ。

「海賊をやめたらってことね?」

「はい」

「やめられるの?」

「もともと他に道がなかったので。でも今は、他の道を模索しています。情報屋も楽しいですし、海賊ではあなたやセスの友人になれないのなら、やめます」

 ずいぶんとあっさりしたものだ。海賊とは色々な掟のようなものがあると思っていた。

「それに僕らはアファナーシー・ニキータを捕まえるためだけに海賊になった。奴がいなければ海賊なんてものにはなりませんし、奴がいなくなれば他の海賊たちもなりを潜めるでしょう」

 そうすればいずれは廃業だ。フェルディにとって、それだけわかっていればいい。

「いつまでも、海賊なんてものの世界が続くはずはないのだから」

 ふっと笑った顔は、どこか自嘲気味だった。

「もう友人だと思っていたわ」

「・・・ありがとうございます。僕も、そうでありたいと思っていました」

 その言葉に引っ掛かりを覚えた百合は、はっと気づく。

「あなたは情報屋もしているのよね」

「はい」

「わたくしやセスの情報も売るの?」

 今度はフェルディが目を見開く。慌てて首を横に振った。

「まさか! そんなこと絶対にありません! 下の者にもよく言い聞かせていますし、絶対にないです」

「そうなの」

 ふぅんと頷くと、百合はにっこり笑った。

「ありがとう、フェルディ」

 そして右手を差し出した。

「・・・あの?」

「“わたし”は百合。本当は百合・天羽というのよ。白い花の名前なの。いつかこの世界でも見れると嬉しいわ。海賊をやめたら、きっと見せてね」

 どう返事をしていいものか彼は考え、そして白い手を取った。

 何度も口の中で彼女の名前を確認した。変わった音の名前だ。きちんと発音できるだろうか。練習しなければ。

「改めて、フェルディ・イグナーツです。ユリ。あ、この名前は他で呼ばない方が良いですよね」

 嬉しさと戸惑いから、彼の声は上ずっていた。その様子に百合が楽しげに笑う。

「そうね。全部終わるまではダメよ」

「はい。約束します」

 久々に繋いだフェルディの手は大きくて、暖かかった。




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