空気を読まないやつってどこにでもいる
「寝ていた、ですか・・・」
騎士団に戻った百合は、見るもの全てが珍しいというバッカスを横目にソファーに腰かけた。
コラードが呆れたように問えば、そうよと頷きが返ってくる。
「神々の加護でしょうね。ああゼノン、わたくしたちにお茶を淹れて」
「はっ」
静かに頷くと、彼は団長室から出て行く。
「何故ここに集まる」
部屋の主たるレオーネも、流石に疲れているのか分かりやすく戸惑った顔をしている。
「事後処理が終わるまでは時間に余裕があると言ったじゃない」
「・・・そこの二人は何者だ」
「わたくしの友人よ」
部屋の中にはフェルディやガルテリオも居た。本来なら海賊が入り込むべきではないが、現在はその正体を隠しているため入ることが許された。
ちなみに騎士団に戻ったガルテリオを見て、受付に居た騎士が嫌な顔をしたのを百合は不思議に思ったが口に出さないでおいた。
「団長殿。はじめまして、僕はフェルディ・イグナーツ。こちらはガルテリオ・ダリ。プリーティアの友人で、情報屋のようなことをしています。今回の神殿の件、海賊が関わっているというのは本当ですか。それは、アファナーシー・ニキータという海賊ではないですか」
フェルディは流れるように言葉を紡いだが、その真剣な瞳には怒りと焦りがあった。
レオーネはジッと彼を見つめ、それから小さく溜息をついた。
「・・・プリーストの誰かが、ニキータがどうとか言っていた。神殿長に文を処分するように言われたが、我々の方が早く、間に合わなかったようだ。文は回収済みで現在中を改めている。内容は教えない、これは我々の役目だ」
「どうしてもダメですか」
「無理だ」
二人の間には冷たい空気が流れだしている。
「ねえユーリ。海賊って本当にいるの?」
「ええ、居るわ」
「ユーリも見たことあるの?」
今目の前に居るが、流石にここでは言い出せない。
「ええ、わたくしの知っている方たちは、とても素敵な海賊よ」
にっこり笑えば、逆にバッカスが胡散臭そうに百合を見た。
「さっきまでのユーリがいい。なんか気持ち悪い」
ぶほっとコラードが吹き出した。
「・・・あとでね」
「えー」
「失礼。この少年が迷い人なのですよね」
「少年って言わないで。僕はバッカスだよ、最初に名乗ったでしょ? ねえフラジール。さっきの剣もう一度見せてよ!」
コラードの質問に、彼はムッとして答えたがすぐに興味は余所へいったようだ。
「どれ、持てますかな?」
「うわぁ! やっぱりかっこいい!」
素直な反応にフラジールもご満悦だ。
「武器が好きなのかい? よかったら僕の銃も触る?」
「え! いいの!?」
フェルディはちらりと百合を見て、それから弾丸を抜いたピストルをバッカスに手渡す。
「こっちもかっこいい! 海賊みたい!」
正真正銘、海賊のフリントロック・ピストルだ。
「僕は普段船で移動しているんだ。よかったら今度船にも遊びに来てください。君が望むなら世界中を見せてあげるよ」
茶を淹れて部屋に戻ったゼノンが目を見開いた。
「何を・・・言っているのです」
「どうして? この国の神殿では彼を守れない。でも僕らなら守れる」
フェルディは真剣な顔で言い切った。
「そうね・・・それもありだわ」
頷いた百合に、今度はフェルディが目を見開いた。認められるとは思わなかったのだ。
「船? 僕、船に乗るの?」
「けれど今考えるべきは他にあるから、その時はお願いしてもいいかしら」
きょとんとした少年の肩をそっと撫でて、百合は微笑んだ。
「あなたの頼みなら何でも聞きますよ」
「あら、嬉しいわ」
ゼノンだけがムッとしている状況で、フラジールが思い出したように呟いた。
「ああそうか、君らも海賊かな」
空気を読まない紳士。それがフラジールである。




