お目覚めの時間です!
「おはようございます。プリーティア、起きていますか?」
柔らかな声に誘われるように、百合はそっと目を開けた。
「あらフラジール、おはよう」
百合が声を出したのでバッカスも目を開けて相手を見た。初めて見る顔だ。物語に出てくる騎士のように、腰に大きな剣を二本も下げている。優しそうに細められた焦げ茶色の瞳には、バッカスが映っていた。
「おや、これは・・・はじめまして、少年。私は西方騎士団副団長のフラジール・アンドレ。君の名を聞いても良いかね?」
「・・・え?」
「名を知らないと呼ぶときに不便だろう?」
バッカスは戸惑った様子で百合を見上げた。
「彼は良い人よ」
そうお墨付きをもらい、ようやくバッカスも安心したように頷いた。
「僕はバッカス・メイフィールド。バッカスでいいよ。ねえ、その剣は本物?」
「ああ、本物だよ。とても重いが、後で持ってみるかい?」
「いいの!?」
嬉しげに笑うバッカスに、フラジールもニコニコと笑う。だが百合だけが悲しげに瞳を伏せた。
「ゆ」
「バッカス。その前にここを出なくてはね」
「あ、そうだね!」
不自然に言葉を止められたことには気付かず、バッカスは百合の手を取って鳥かごを出た。彼らが外に出ると、まるではじめからなかったように音もなく姿を消した。
「バッカス。わたしの名前を外で呼ばないで」
「どうして?」
「ユーリという名前で通しているの。お願いよ、バッカス」
「・・・うん。わかった」
素直に頷く少年に、百合はほっとしたように微笑んだ。
バッカスはそれが少し寂しく思ったが、何故寂しいと思ったのかはわからなかった。
「ありがとう」
「うん」
何故礼を言われるのか、それすらも彼はわからない。だが触れてはならないことなのだと、少年は納得した。
「フラジール。彼の状態を確認して。ゼノンは?」
「今こちらに向かっております。何やら街で海賊を見かけたとか。こんな街で有り得ないことのように思いますが・・・ゼノンが言うのなら間違いはないのでしょうな」
「どっちの海賊?」
「は?」
南の街で起こった事を情報として少しだけ知っているフラジールにも、その質問には答えられなかった。
「フェルディ・イグナーツ船長。このふざけた男をどうにかしてください。どうやったら死ぬんですか、こいつは」
「そうだね、僕も今真剣に考えてるんだけどわからないんだ」
ゼノンの怒りは軽く頂点を超えていた。
騎士団に戻った時、変質者なら対応できるが変態の対応は騎士の役目ではないと断られてしまったのだ。捕えた男だけ預けて、三人は騎士団を追い出されてしまった。
フラジールも、そしてレオーネやコラードも神殿へ向かったため、ゼノンの見方は一人もいない。
仕方なくゼノン、フェルディ、ガルテリオの三名は神殿に向かった。
「どうしてこう、高いところに入り口を作るんだろうか」
騎士団に入るときは手伝ってくれる騎士が居たが今は居ない。
「フェルディ。なんだか妖精さんでも出てきそうね!」
神殿の外観は、ガルテリオが言う様に物語に出てきそうだ。
だが現在は王都から到着したプリーストを入り口に運ぶため、大量の騎士が投入されており、場は騒然としている。
「よく見ろガルテリオ。これだけの人数のプリーストと騎士を前に、何を言ってるんだ? 僕らは一応海賊なんだぞ?」
「先程殴りすぎましたか。発言が更におかしいことに」
「大丈夫だ。いつもだから」
「・・・大丈夫ですか?」
何言ってんのこいつ、という視線に気づいたのか、フェルディはそっと視線を逸らした。




