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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
77/203

ゼノンの機嫌は最高潮に悪かった


 人は悔しかったり、悲しかったりすると泣く生き物だ。極稀に嬉しくて泣く人もいるが、なかなかそんな経験は出来ない。

 さて、時に人は怒りで涙を流すこともある。

「ぷ、プリーティア。どうか泣き止んでくだされ」

「すぐに出して見せましょう、大丈夫です」

「泣き顔まで美しい・・・」

「何を言っているんだお前。ああプリーティア、ご安心くださいませ。このプリーストが必ずや救出してご覧にいれましょう!」

「でもどうするのです。もう何年も開かれないのですよ」

「プリーティア、神々に祈りを捧げてまいります。あなたがここから出られるように」

 そう神殿長が言えば、他のプリーストたちも後に続く。騒がしい男たちが居なくなったとたん、バッカスが顔を上げた。

「ユリ、どうしたの? どこか痛いの? ここから出してあげようか?」

 百合は声もなく涙を流し、首を横に振った。

「どうして、泣いているの? 僕のせい?」

 おろおろと視線を彷徨わせるバッカスの身体を、ぎゅっと抱きしめた。

 どうして彼らはバッカスの名前を呼ばないのだろうか。

 どうして彼らは、百合のことは心配してもバッカスを迷い人と、別の問題にしているのだろうか。

 彼は小さな少年のまま、何年も放置されてきたのだ。鳥かごの中でしか生きられないように。ずっと独りだったのだ。

 今まで他人なんてどうでも良いと思っていた。けれど、どうしてもっと早く彼を確認しなかったのか、百合は様々な意味から怒っていた。

 言い表せないほどの怒りで体が震えるのは初めてだった。

 バッカスは混乱しつつも、そっと女の背に手を伸ばした。

 この人が自分のために泣いていると思ったら、落ち葉色の瞳からも涙がこぼれた。

「泣かないで、僕は大丈夫だから」

 平気だよ、大丈夫だよ。彼はとても優しい声で囁いた。けれど、その言葉が何よりも彼女の心を責めたことには気付けなかった。

 涙は枯れることなく落ちていった。


 どれほどの時が経ったのか、百合はいつの間にか眠ってしまったようだった。

「おはよう、目が覚めた?」

 柔らかな声に誘われて視線を上げれば、バッカスが花冠を作っている最中だった。

 似合いすぎて違和感がないところが怖い。

「バッカス、おはよう」

「うん」

 嬉しそうに笑うバッカスが、そっと花冠を百合の頭に乗せた。

 白やピンクのそれはとても愛らしい。

「わたしにくれるの?」

「うん。とっても似合ってるよ」

 流石紳士の国の人。スマートに相手を笑顔にしてくれる。

「ありがとう、バッカス」

 百合は意識して彼の名を呼んだ。呼ばれるたびに嬉しげに笑う彼が可愛くて、そして申し訳なくてたまらなかったからだ。

「さっきも連中が来たよ。君が眠っていたのを見て凄く慌ててた」

 くすくす笑う彼に百合は首を傾げる。

「どのくらい眠っていたのかしら?」

「さあ。僕も寝てたし・・・それに、この中に居たら時間なんて関係ないしね」

 けろりと答える彼に、百合は眉をひそめて問うた。

「ねえバッカス。あなた、食事とかどうしているの?」

「食事? ユリは、お腹がすいたの?」

 不思議そうに百合を覗き込んで、そっと首を傾げつつ花冠をいじった。どうやら先程百合が首を傾げたせいでずれてしまったようだ。

「すいてない」

「うん。僕も、すかないよ」

「え?」

「もうずっと食べてないよ。この中に居る間は、何も食べなくても平気なんだ」

 バッカスが、どこか寂しげに微笑んだ。



 その頃。ゼノンの機嫌は最高潮に悪かった。

 騎士団の執務室に団長とフラジールの三人。一日中最低限の会話のみで過ごしていた。

 フラジールはその空気に耐えられず無言で部屋を出て行き、廊下で胃の辺りを抑えていた。

 高嶺の花が自ら神殿に赴いて四日。王都からは鷹便で応援を向かわせたという知らせが入ったが、それどころではなかった。

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