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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
75/203

引きこもり歴およそ10年

 鳥かごからの出入りは、どうやら出来そうだと考えた百合に、バッカスは小さく息を吐き出した。

「だってこの中にいる間は、あいつら手出しできないでしょ?」

「まさか、自分からここに引きこもっているの?」

「そうだよ」

 あっけらかんと言いきったバッカスは、どこかスッキリした顔で百合を見つめた。

「ねえ、日本って、島国なんだよね。僕外国に行ったことないんだ。君の国は何がおいしいのかな? どんな遊びがあるの?」

「え?」

「僕ね、甘いお菓子が好きなんだ。日本にはどんなお菓子があるのかな?」

 ああそうか、と百合は納得した。

 彼の心は時間を止めている。まだ子どものままなのだ。

 キラキラと輝く瞳で百合を覗き込む姿に、わずかな男らしさもない。彼はまだ女を知らない。それどころかきっと。

「あなた、ここに来た時は何歳だったの?」

「・・・なんでそんなこと聞くの?」

 相手にされていないと思ったのか、バッカスはムッとした表情を作った。

「いいじゃない。教えて」

「12歳だよ。シニア・スクールに通ってたんだ」

「シニア?」

「私立の学校だよ。学校に通わずに家庭教師を雇って自宅で勉強してる子もいるよ。僕は私立・・・でもうちの学校、制服がすっごくダサいんだ」

 イギリスでは4歳から16歳まで義務教育だが、金銭的に余裕がある家庭は家庭教師を雇って教育を受けることが出来る。同じイギリスといっても、それぞれの政府でルールも違うらしい。

 また、学校に通う場合は5歳から16歳までの間公立だと無料で通える。私立に通うということは、金銭的に恵まれた家庭で育ったのかもしれない。

「そうなの。わたくし・・・いいえ、わたしの中学校もダサかったわ。あれはもう耐えるしかないのよ」

「そうなんだ! よかった、僕の所だけじゃないんだね!」

 嬉しそうに、楽しそうに笑う彼は子どもだ。身体も、そして心の成長も止めてしまったのかもしれない。そう思うととても可哀想な気になった。

「ねえ、バッカス。あなたは・・・」

 彼女が口を開けば、野太い声が響いた。

「なんということだ!」

 顔を上げると、そこには大勢のプリーストが驚きの表情で立っていた。




 バッカスは彼らに気付くと口を閉ざしてしまった。それどころか、まるで興味がないと言わんばかりに目を閉じて寝たふりまではじめる始末だ。

 百合はとても小さな声で彼に囁いた。

「わたしが必ず地上に戻してあげる。だからどうか、わたしに話を合わせて、バッカス」

 名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、彼はぎゅっと目を閉じて、そして小さく一つ頷いた。

「これはどういうことです」

 先程までの笑みを消した女を、プリーストたちが驚いて見つめる。

「ここから解放なさい」

「わ、我々にはどうしようもないのです!」

 一人のプリーストが前に出た。

 先程叫んだ人物だろう。恰幅の良い男だ。だが、この体格では空を自由に行き来するなんて難しいだろうに、普段はどうしているのか。

他のプリーストと違う色合いの制服を着ているので、上位のプリーストで間違いない。もしかすると神殿長かもしれない。

「わたくしは西のエメランティス神殿のユーリ。わたくしは西と、王都の神殿長の命で参りました。このような扱いは許されません」

 怯えはないが怒りがあった。誰もが、百合が怒っていると気付いた。気付かせた。

「わ、わたくしはこの神殿の神殿長で」

「ならば今すぐに解放なさい」

 淡々とした口調は更に相手を追い詰める。

 彼らがバッカスをどのように思っているのか、扱って来たのかを確かめる必要があった。

「その鳥かごは、どのような手を使っても壊れないのです!」

「何を言っているのです」

「本当なのです! その迷い人以外扱えないのです。しかし彼はもうずっと目覚めない!」

 目覚めない?

「ずっと、こんな鳥かごに放置しているのですか」

「いえ、ずっとというわけでは・・・かなり昔になりますが、迷い人が外に出ようとして入り口から落ちてしまい、怪我を負ってからです」

 神殿長は額から大量の汗を流していた。ゴシゴシとハンカチーフで拭うが止まらない。

「怪我の手当ては」

「また逃げようとしては困るでしょう!? それに、その迷い人は口がきけないのですよ、どう説明せよと言うのですか!」

 百合の頭の中で、血管が切れる音がした。


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