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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
74/203

バッカス・メイフィールド

 鳥かごは、白っぽい骨組だが、良く見ると竹のような素材で出来ていた。だがどれだけ探しても扉がない。

 男は百合に気付かない様子で穏やかな寝息を立てている。

 ミルクティーブラウンの柔らかそうな髪。鼻も高く肌も西洋人のように白い。睫毛に至っては銀色だ。話に聞いていた印象とはだいぶ違うが、彼が迷い人で間違いないだろう。

だが想像より幼かった。

 随分前に来たということは、少なくとも成人しているはずなのに、彼はまだ少年のように見えた。

 百合はそっと手を伸ばすと、ギリギリ彼の頭に届いた。腕が痛いが気にしない。

指先が頭に触れても彼も目を覚まさない。

「どうしてここにいるの?」

 周囲に気を付けながら小声で話しかけるが反応もない。

 手を伸ばして頭を撫で、もう一度同じ言葉を投げかけた。

「どうして、ここにいるの?」

「・・・」

 彼はうっすらと瞳を開けた。そのまま百合を見上げる。格子越しにある存在に、驚いたように目を見開いた。

「わたくしはユーリと呼ばれているの。ここに来たのは初めてよ。あなたは、だあれ?」

 幼子に話しかけるように言葉を紡げば手を伸ばしてきた。

格子に触れると思われた瞬間、それは音もなく、人一人が入れるくらいの隙間ができた。男は無遠慮に彼女の腕を引き、百合は引かれるままに鳥かごの中へ入った。

「これが、あなたの力なの?」

そのまま百合を抱え込んで横になる。ぼふっと音が響いた。かごの中にはたくさんの花と、花びらがあった。それがまるで舞う様に揺れる。

「きみ、誰」

 大人の男にしては少し高めの声。しかしかすれていて聞き取り難い。

「ユーリよ」

「それは呼び名。きみの名前じゃないでしょ」

 彼の瞳は、角度によって色彩を変えた。初めは深い緑のようにも、茶色のようにも見えたのに、真横にあるそれは黄色く光っている。

 なるほど、落ち葉色とはよく言ったものだ。

「あなたの名前を教えてもらっていないもの、わたくしだけなんて良くないわ」

「・・・もうどうせ、誰も呼ばない」

 その男は若いようにも見えたし、とても年老いた人のようにも見えた。

「天羽百合よ、日本人なの。あなたは?」

 日本人と言った瞬間、彼はとても驚いて体をわずかに揺らした。しかし手は絶対に離そうとせず、彼女を抱きしめたままだ。

「・・・バッカス・・・バッカス・メイフィールド。イングランド人だよ」

「そう」

イングランドってイギリスの一つだっけと考えながら頷く。

イギリスは四つの国から成り立つ連合王国だ。日本人がイメージするイギリスは、大きな時計塔とロンドン橋。カラフルな国旗。紅茶と紳士の国。でも食事は不味い。

「・・・食事は普通においしいよ」

 心を読まれたのだろうか、瞬きすると彼はそっと視線を逸らした。

「日本人は食事にうるさいってママに聞いたことがある」

「美味しいものが好きなだけよ」

 否定はしないが。

「あなた、いつからこの世界に居るの?」

「わかんない。もうずっといる」

 随分と幼い話し方だ。

「あなたは喋れないって聞いたことがあるのだけど」

「なんで僕が喋る必要があるの? それに、ここの連中はおかしい」

 警戒心から、あえて口を閉ざしたのかもしれない。

「そうね。かなりおかしいと思うわ。でも、あなたはどこがおかしいと思ったの?」

「僕を外に出さないんだ。昔勝手に出ようとしたら凄い高さから落ちて足が折れた。でも治療は出来ないんだって。ここには専属のお医者様がいないから」

 言われて、百合はそっと体を起こした。彼の足は普通に見えるが、先程からあまり動いていないようにも見える。

 そして気付く。百合と彼の身長にはほとんど差がなかった。

「癒しの力は使ってもらったの?」

「何それファンタジー?」

「・・・こんなファンタジー満点の鳥かごに入っていてよく言ったものだわ」


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