聞く耳を持たない
「我々が空中を移動するには様々な理由があるが、一番の理由は神殿が大きく関わっている。奴らはこちらの動きを逐一警戒しているようでな」
「団長!」
「こちらとしては見られて困ることはない。だが、奴らはそうではないようだ」
レオーネはここで一度言葉を止めた。全員の顔を見渡して低い声で続ける。
「お前たちも知っているように神殿には迷い人がいる。私は会ったが事がないが、その迷い人は現在、神殿にて囚われている」
フラジールがハッとして百合を見た。彼女の顔にはどのような感情も浮かんでいない。
「といっても、実際に見たわけではないがな。良心の呵責に耐えきれず、通報してきた人物がいるんだ」
「その者は、今・・?」
ゼノンがわずかに眉を顰めて問うた。
「わからん。最後に連絡がついたのはお前たちが到着する少し前だ」
到着早々矢で射られたのは、神殿のローブを身につけていたからかと、ゼノンはようやく納得した。
東西南北で色を変えているだけでデザインは同じだ。遠目ではよくわからないこともあるだろう。
「また、水に関しても神殿が勝手にわけのわからんケチをつけたんですよ。人々は神殿の言うことなら従う。従わなかったから病に罹ったんだという人間も現れるほどです。決まった店というのは、神殿が懇意にしている店でした」
コラードが悔しげに続けた。
「病の件は作為的なものがあるわ。水に関しても奇妙な話ね。神殿内ならば澄んだ水があるはずよ。神々は澄んだ水を好むわ。これほど大きな街の神殿ならば、地下を流れる水すら澄んでいく・・・わたくしたちの、ヴェステンのように」
だから、決められた店の水以外飲めないというのはおかしな話なのだ。
「正直、最初に聞いたときはただの詐欺だと思っていました。そういう詐欺は世界中にあるものです。ですが神殿が何か意図を持って流しているのだとしたら話は大きく変わってきます」
百合の言葉にゼノンが続けると、ついにコラードが頭を抱えた。
「そもそも神殿は何がしたいんですか!?」
「知らないわ。でも確かめる方法はある」
ハッとした顔でゼノンが百合を見つめた。
「ダメです」
鋭い声が響く。
「最後まで言っていないわ」
「とにかく、ダメです」
聞く耳を持たないという態度で視線をずらすと、ゼノンはそれ以降百合を見ない。
「プリーティア、もしや神殿に乗り込むおつもりですか?」
「わたくしが神殿に居る間、少しの時間かもしれないけれど、彼らはわたくしに注目することになる。その間なら、あなたたちは自由に街を調べられるのでしょう? それに、迷い人のことも一気に調べられるわ」
「反対です」
「ゼノン。時間がもったいないの。わたくしは、今すぐにでも帰りたいのよ」
レオーネの屋敷と騎士団との往復だけの日々。楽しみなんてあるはずもなく。
「ここにはワインもないし」
「何しに来たんですかあなた。それにワインだけじゃなくてエールもちゃんとありますよ」
コラードが脱力して突込と、
「ちやほやしてくれる人もいないし」
「私がいるではありませんか・・・私では満足できないのですね」
フラジールが寂しげに呟き(彼はゼノンから絶対零度の視線を受けた)、
「空を移動するのもあきちゃったし」
「同感ですね。毎日男に担がれるのは楽しくありません」
ゼノンが同意し、
「それに皆さんと水浴びできないのは退屈だわ」
「・・・・・・・水浴び?」
レオーネが怪訝な顔を見せた。
「団長。前に言っていたではありませんか。西では男女ともに水浴びするとか・・・めちゃくちゃですよ」
蜘蛛が長く細い糸をつむぐような溜息をつき、コラードは表情を引き締めた。




