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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
58/203

まわりが勝手にライバル扱いしてるだけ・・・のはず。

 オースティンには四つ年上のライバルがいる。

 東方騎士団団長レオーネ・ヴィンツェンツィオ。御年33。無口無表情無感情を形に表したような男は、貧乏貴族のオースティンと違い伯爵家の三男坊だった。本来ならば立場が違うはずの二人は、歳が近いというだけで幼い時分より何かと比べられていた。

感情豊かで努力家のオースティンとは違い、何事も器用にこなすが感情がないのではないかと疑われるほど表情が動かないレオーネ。

 何をしても二人は貴族たちの丁度良い玩具のように見比べられ、知らずライバルのように扱われてきた。

 レオーネが16歳で結婚したら、当時まだ12歳だったオースティンにも婚約者が出来た。相手が貧乏暮らしを嫌がってすぐに婚約破棄されたが。

 オースティンが楽器で楽団と共演すれば、レオーネも楽器をパーティなどで演奏した。

 レオーネが騎士団で上官と模擬試合をして勝てば、数年後オースティンも同じようにして勝った。

 オースティンが緑を好めば、レオーネは何故か青にこだわるようになった。

 そして、オースティンが史上最年少で騎士団長として派遣された一月後、レオーネは東の騎士団長に任命された。

「そんな負けず嫌いがなんだというのですか」

 どうやって用意したのか、ゼノンがホットワインを女に差し出した。水浴びの後で体が冷えていた百合には嬉しいものだ。

「ありがとう、ゼノン」

「いえ」

 両手で包み込み熱を取る百合に、ゼノンは優しく目を細めた。

「・・・ゼノン。話は最後まで聞け。どうやら東でも奇妙な病が流行って「却下よ」

 百合の鋭い声が飛んだ。

「わたくしたちは一週間前に帰ってきたばかりの。絶対に嫌よ」

「同感です。それに、神殿の役目も最近果たしていませんし、そもそも何故我々が行かねばならぬのです。王都の方々に行ってもらってください」

 オースティンもそれには賛同だが、今回は断れない理由があった。

「二人の気持ちはわかる。だが、今や西のプリーティアは女神の再来とうたわれ各地に話が飛んでいる。奇病が流行り街も人も元気をなくしている今、何かにすがりたいという気持ちはよくわかる」

 ほんの数か月前の己がそうだったように。

「それに、この世界にはない知識を持っている迷い人は希少な存在だ。本来ならば行かせたくないが、今回は国王陛下もお許しになられた」

 つまりそれは王命というやつだった。

「いやよ」

「・・・ヨシュカ・ハーン殿もぜひ奇病を解決して欲しいと」

「い、や、よ」

 ようやく旅の疲れが取れた頃に、また街を出て人助けなど彼女の望むところではない。

 百合は、ともかく楽に生きたいのだ。目立つつもりもなければ、自分が楽をできればそれで良い。時々ちやほや持て囃してくれると尚良い。

 そんな考えの人間が正義感に突き動かされることはない。

「我々は本来軽々しく神殿から離れるものではありません」

 冷静な声でゼノンに諭され、オースティンはぐうの音も出なくなった。

「あ、あの、プリーティア様」

 そんな時、オースティンに同行していたまだ若い騎士がおずおずと手を挙げた。

「あら、何かしら?」

 美しい微笑みを向けられた騎士は一瞬言葉を止める。しかし次の瞬間には歯を食いしばって彼女を見つめた。

「ぶ、無礼を承知で申し上げます!」

 百合は少なからず驚いた。己にこのような好戦的な目を向けてきた男はあまりいない。わずかに頬が赤らんでいるし、緊張からか全身が小刻みに揺れているが、それでも面白いと思った。

「じ、自分は東の生まれです。妹や弟がいます」

 ゼノンがちらりとオースティンを見やる。情に訴えるつもりかと視線で責めた。

 オースティンはそっと首を振って、そんなつもりはないと否定するが、ゼノンの周りの温度がどんどん下がっていった。

「今、東では奇妙な症状を訴える人が増えています。自分は死んでいるのだと言って、一日の大半を墓場で過ごすのです。兄弟が怯えていて・・・お願いです、何か彼らを救う手だてはありませんか!?」

「死んでいるのに動けるわけがないだろう」

 ゼノンが一蹴すれば、それでも騎士は首を大きく振った。

「それでも彼らは本気で信じているのです! お願いですプリーティア。あなたはこのヴェステンをお救いくださった。今度はどうかオステンをお救いください!」

 オステンとは東の街の名前だ。大きな川と高い木々が特徴の街で、木々はゆうに20メートルを超えるものが連なり、人々は昔からその高い木を使って住処にしてきた。

 木材を使った食器や家具は王都でも人気があり、職人たちは競う様に新しい製品を生み出している。

 この街の一番の特徴は、小さい子どもは外に出さず、自力で木を降りられる年になるまで家の中で過ごす。家の中と言っても、家のある位置から上へ向かうことは許されるようで、地上10メートルの高さで遊んでいる。そのため足腰は大変強く、まるで動物のように自在に空を走るのだとか。

 百合はジッと騎士を見つめた。

 若い彼は目の下に隈をつくり頬は少しこけている。オリーブのような深い緑の髪に、冬の空を思わせるセルリアンブルーの瞳。唇は噛締めているせいで端が鬱血している。普段は少し鼻が低いのを気にしているが、今はそれどころではないのだろう。精神的にも限界なのだろう。故郷の家族を思って山を登ってきたのだ。

 まだ二十歳にも達してもいないだろう。しかしオースティンの護衛としてついて来ているのなら実力は認められているのだろう。

 百合は足の先から頭の上まで二度ほど彼を眺め、そして一つ頷いた。

「ここから少し行くと神殿があります。あなたは一人で、一足先にそちらに行きなさい」

「は、はい」

 彼女がすっと手を伸ばした先に、彼は自然と引き寄せられるように歩き出した。

「おいプリーティア」

「ここから先は神々が判断されます」

 咎めるようなオースティンに、百合はふっと微笑んだ。

「わたくしたちの助けが本当に必要ならば、神々が彼を導くでしょう」

 その言葉通り、10分ほどして神殿に戻った百合たちの前には、白亜を前に呆然と突っ立っている騎士。

「無事にたどり着けたようですね」

「あ。はい、あの、プリーティア様・・・」

 入っていいものか迷っていたらしい。彼は困ったような顔で百合を見つめた。

「あなた、お名前は? わたくしはプリーティア・ユーリ」

「はい、あ、はい。俺はツァーク・オッシです。オースティン団長の護衛騎士を任命されています」

 百合は優しく微笑んだ。





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