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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
51/203

疲れた彼には酷い仕打ちだ!

ここからようやくギャグが戻ってきます!

 セスとの合流はスムーズとはいかなかった。猛スピードで突進してくる馬を見て、事情を知らないプリーストたちが盗賊と勘違いした。そのため馬車が慌てて逃げ出すという事態に陥った。一瞬呆然としたセスが混乱しながらも、とりあえず彼らを追う。ここまで来て逃げられるなんてあんまりだ。

しばらく慌てふためくプリーストたちを観察し、次にセスを心配げに何度か後ろを覗き込むようなゼノンを見て、状況をたっぷり楽しんだ百合が止めに入った。

 早馬を駆け合流したセスは、馬車がようやく速度を落としたことに安心した。すぐに声をかけるとプリーストたちが必死に謝ってきたが、見慣れない相手に警戒心を緩めることはなかった。

 そんな中、楽しげな笑顔を浮かべて百合が「おかえりなさい」と言った。その顔を見て遊ばれたことに気付いたが、元気そうな様子に安心した。

 ゼノンが「無事で何より」と声をかければ、セスは素直に頷いた。

「ずいぶんと、ゆっくりした行程だな」

「プリーティアが体調を崩されたので、少し予定を変更しました」

「・・・大丈夫なのか?」

「ええ、熱も下がったから平気よ」

 それでも心配だったのか、セスは無遠慮に手を伸ばして白い額にぴたりと当てた。驚いたのは事情を呑み込めていないプリーストたちだ。

「ぷ、プリーティアになんてことを!」

「ゼノン様、こちらはいったい・・・」

「羨ましい!」

 若干おかしな発言をしているが一切無視して、ゼノンは淡々と説明する。

「この少年は植物の専門家で、少し前に西の街で流行った原因不明の病を終息させた人物です」

 おおっ、と驚きの声があがる。

「なんと、こんなに幼いのに」

「これでも成人している」

 そのイラついた様な言葉に、彼らはまた驚いた。

「そんなことより、あなたは大丈夫だったの? 怪我は?」

「怪我はない。街は・・・まあ多分大丈夫だ」

「詳しく聞かせて?」

「もちろんだ」

 セスはそう言って百合の隣に座った。

 セスが乗ってきた馬は他のプリーストが引き継いだ。百合の隣に居る少年を見て、ゼノンも薄く笑った。



「そう、街が・・・」

 海賊が街に火を放ったことを伝えれば、百合は悲しげに呟く。

 暑苦しくて変態的な集団が守っていた港町だが、燃えたと聞けば心は痛む。

「フェルディたちも頑張っていた」

「ええ、彼はまっすぐな人ですから、きっと頑張ると知っていたわ」

「・・・今度連絡を取りたいと言われたんだが」

「あら、素敵ね」

 にこにこ笑っている彼女の前にはゼノンが陣取っていて、素敵なお話も全然素敵な雰囲気ではなくなる。

「ゼノン。安心しろ、あいつは多分そういうのじゃない」

「はて、私は何も言っていませんが」

 ならその冷気を沈めろとは言えず、セスはそうか。とだけ頷いた。

「ガルテリオに聞いたんだが、もともとフェルディは違う国で海軍にいたらしい。海賊に姉を殺されて、追っているうちに海賊になったと言っていた」

「あら・・・海賊が憎いのではないのかしら?」

「フェルディにとって、海賊そのものが憎いのではなく、特定の相手だけが許せないのだと思う。・・・あの街を襲った海賊は、手下を踏みつけて足場を作って逃げたと聞いた。フェルディが追っているのが、その海賊だ」

 セスは当時神殿に居たのでわからないけれど、壮絶な戦いだったに違いない。彼はフェルディの横顔を思い出していた。

「皆さま、無事だったのかしら」

「フェルディの手下たちは、最近なまっていたことが判明したから鍛え直しているようだ。騎士団の連中はそう酷い怪我人は居なかった。戦いの時はちゃんと鎧を身につけていたらしいぞ」

 それにはゼノンも頷いた。

「一応人間らしい考えはあるのですね」

 一瞬場の空気が凍ったが、百合は気にせずおっとり微笑んだ。

「無事ならばいいの。街の復興はどうかしら」

「復興は早いと思う。こう言ってはなんだが、彼らはとても打たれ強い」

「そうね、ええ、そうならいいの」

 ホッとした笑みを見て、セスもようやく肩の力が抜けた。そうすると溜まっていた疲れを一気に意識してしまい、まるで気絶するように眠ってしまった。

「全く・・・しょうがない方ですね」

 ゼノンはそう言って、百合の傍からセスを引き離し自分の隣に眠らせた。


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