疲れた彼には酷い仕打ちだ!
ここからようやくギャグが戻ってきます!
セスとの合流はスムーズとはいかなかった。猛スピードで突進してくる馬を見て、事情を知らないプリーストたちが盗賊と勘違いした。そのため馬車が慌てて逃げ出すという事態に陥った。一瞬呆然としたセスが混乱しながらも、とりあえず彼らを追う。ここまで来て逃げられるなんてあんまりだ。
しばらく慌てふためくプリーストたちを観察し、次にセスを心配げに何度か後ろを覗き込むようなゼノンを見て、状況をたっぷり楽しんだ百合が止めに入った。
早馬を駆け合流したセスは、馬車がようやく速度を落としたことに安心した。すぐに声をかけるとプリーストたちが必死に謝ってきたが、見慣れない相手に警戒心を緩めることはなかった。
そんな中、楽しげな笑顔を浮かべて百合が「おかえりなさい」と言った。その顔を見て遊ばれたことに気付いたが、元気そうな様子に安心した。
ゼノンが「無事で何より」と声をかければ、セスは素直に頷いた。
「ずいぶんと、ゆっくりした行程だな」
「プリーティアが体調を崩されたので、少し予定を変更しました」
「・・・大丈夫なのか?」
「ええ、熱も下がったから平気よ」
それでも心配だったのか、セスは無遠慮に手を伸ばして白い額にぴたりと当てた。驚いたのは事情を呑み込めていないプリーストたちだ。
「ぷ、プリーティアになんてことを!」
「ゼノン様、こちらはいったい・・・」
「羨ましい!」
若干おかしな発言をしているが一切無視して、ゼノンは淡々と説明する。
「この少年は植物の専門家で、少し前に西の街で流行った原因不明の病を終息させた人物です」
おおっ、と驚きの声があがる。
「なんと、こんなに幼いのに」
「これでも成人している」
そのイラついた様な言葉に、彼らはまた驚いた。
「そんなことより、あなたは大丈夫だったの? 怪我は?」
「怪我はない。街は・・・まあ多分大丈夫だ」
「詳しく聞かせて?」
「もちろんだ」
セスはそう言って百合の隣に座った。
セスが乗ってきた馬は他のプリーストが引き継いだ。百合の隣に居る少年を見て、ゼノンも薄く笑った。
「そう、街が・・・」
海賊が街に火を放ったことを伝えれば、百合は悲しげに呟く。
暑苦しくて変態的な集団が守っていた港町だが、燃えたと聞けば心は痛む。
「フェルディたちも頑張っていた」
「ええ、彼はまっすぐな人ですから、きっと頑張ると知っていたわ」
「・・・今度連絡を取りたいと言われたんだが」
「あら、素敵ね」
にこにこ笑っている彼女の前にはゼノンが陣取っていて、素敵なお話も全然素敵な雰囲気ではなくなる。
「ゼノン。安心しろ、あいつは多分そういうのじゃない」
「はて、私は何も言っていませんが」
ならその冷気を沈めろとは言えず、セスはそうか。とだけ頷いた。
「ガルテリオに聞いたんだが、もともとフェルディは違う国で海軍にいたらしい。海賊に姉を殺されて、追っているうちに海賊になったと言っていた」
「あら・・・海賊が憎いのではないのかしら?」
「フェルディにとって、海賊そのものが憎いのではなく、特定の相手だけが許せないのだと思う。・・・あの街を襲った海賊は、手下を踏みつけて足場を作って逃げたと聞いた。フェルディが追っているのが、その海賊だ」
セスは当時神殿に居たのでわからないけれど、壮絶な戦いだったに違いない。彼はフェルディの横顔を思い出していた。
「皆さま、無事だったのかしら」
「フェルディの手下たちは、最近なまっていたことが判明したから鍛え直しているようだ。騎士団の連中はそう酷い怪我人は居なかった。戦いの時はちゃんと鎧を身につけていたらしいぞ」
それにはゼノンも頷いた。
「一応人間らしい考えはあるのですね」
一瞬場の空気が凍ったが、百合は気にせずおっとり微笑んだ。
「無事ならばいいの。街の復興はどうかしら」
「復興は早いと思う。こう言ってはなんだが、彼らはとても打たれ強い」
「そうね、ええ、そうならいいの」
ホッとした笑みを見て、セスもようやく肩の力が抜けた。そうすると溜まっていた疲れを一気に意識してしまい、まるで気絶するように眠ってしまった。
「全く・・・しょうがない方ですね」
ゼノンはそう言って、百合の傍からセスを引き離し自分の隣に眠らせた。




