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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
49/203

成り行きで海賊。でも後悔はしない。


 また夜が来た。人々が街に戻り、燃えた港を見て呆然として、しかし次の瞬間には元気よく動き出す。

 騎士団に協力していたセスは、休むように言われ応接室でぼうっと夜空を眺める。灰の臭いが風に乗ってやってくる。嫌な臭いだ。

先日フェルディが提示した条件を、セスは思い出していた。

「プリーティアと連絡をとるさいの橋渡しをして欲しい」

 簡単な願いではない。女は神殿のプリーティアで、男は海賊だ。間違っても関わりを持つべき相手ではない。

 それでもセスが迷わなかったのは、ユーリと呼ばれるプリーティアがフェルディに対して警戒心を持たなかったからだ。

 彼女はとても警戒心が強い。どれだけ綺麗な笑顔を浮かべていても、初めは人間嫌いなのではと疑ったぐらいだが、今では違うことが分かっている。

 彼女のことを思いながらセスはソファーに横になる。

彼女の子守唄を口ずさんでいたら、いつの間にか眠ったようだった。

そして翌朝。港に向かったセスの前には死屍累々と化した男たちが横たわっていた。

「・・・なんだこれは」

「やあセス」

 海賊とは思えない爽やかな笑みを浮かべて剣を振るっているフェルディの前で、一人、また一人と倒れていく。

「顔と行動があっていない男だな」

「酷いな。彼らを鍛えているだけだよ」

 最近なまっちゃって。なんて苦笑するような場面には見えない。

 ほんの少し前にアファナーシー・ニキータと争ったばかりだというのに、フェルディには余裕が見えた。

「アファナーシー・ニキータはどうだったんだ」

 セスが何気なく聞けば、フェルディがわずかに動きを止めた。それからふっと息を吐き出して空を見上げる。

「次は殺すから大丈夫だよ」

 絞り出すような声に、セスはそっと視線をずらした。

「・・・フェルディは少し、ユーリに似ている」

「え?」

「あまり一人で生きようとするな」

 それだけ言い置いて彼から背を向けて歩き出したセスの細い腕を、フェルディは思わず掴んだ。

「どういう意味だ?」

「言葉の通りだ。あんたはもう少しまわりを見ろ」

 フェルディはわずかに眉を寄せ、そして視線を巡らせた。

「ちょっとやりすぎたかな?」

「そういう意味じゃない。ボケてるのか?」

「ぼけ? え?」

 はあ。わざとらしくため息をつくと、なぜか笑いが込み上げてきた。

「あんた、面白いな」

「え、え?」

 自分よりも年下の美少年に笑われてもフェルディは嫌な顔をしなかった。

「やっと笑ったね、セス」

「あんただって、さっきまで胡散臭い顔だっただろう」

「・・・ごめん。そうだセス、一つ聞いてもいいかな?」

「なんだ」

 フェルディから見てセスは細すぎて心配になる。恐る恐る手を離した。

「セスはずっとこの国で植物の研究をしていくのかい?」

「植物の研究者でもあるが、錬金術師でもある。錬金術師長の許可がなければ国外に出ることはない」

 錬金術師は地位や名誉や金銭を約束されているが、戦争などの際は最前線で国のために戦う契約をさせられている。万が一不在の折に戦争が始まってはことなので、錬金術師が国外に出ることは中々ない。

「そうか、残念だ。この船なら世界中の植物を見に行けるのに」

「あんたが海賊やめたら考えてやる」

「それは・・・」

 フェルディがふっと笑った。

「そうだね、いつか・・・いつか奴を殺せたら考えるよ。まさか今回は自分の手下を踏みつけて道を作って逃げるなんて思わなかった。不覚だ」

 セスはその言葉を理解して想像して、それから顔をしかめた。

「なんで手下はそんな奴についていくんだろう」

「絶対的な自信を持っている人物はね、時々何故か人がついてくるんだ」

 なんでだろうね、と笑う彼はあまり絶対的な自信という単語が似つかわしくない。

「あんたにはないのか、そういうの」

「僕にあるわけないじゃないか」

「じゃあなんで海賊やってるんだ」

「いや。成り行き的な・・・」

 姉を殺された当初、海賊になるつもりはなかったのだ。ただ軍人でありながら国に背いたということだけで海賊扱いをされて、ついてきた部下までその様に言われた。だが彼らは強かった。なんと罵られようとも目的のために前を向いてくれた。

 中には海賊でもいいじゃないかという強者まで現れ、じゃあ船長はフェルディしかいないという話になった。

 たった一人で進めるはずだった長い旅路が、気付けば大勢の仲間とともに航海していた。

「海賊やめたら俺を乗せてくれるんだろう? ついでにどうだ、ユーリとか誘って。多分旨い茶とふかふかのソファーでも用意すれば簡単に了承すると思うぞ」

「プリーティアを武骨な男たちの船に乗せられないよ」

「安心しろ。あんたはあの騎士団の連中よりは武骨じゃない」

「あ・・・うん・・・ありがとう・・・」

 何か微妙な空気になったので、セスは軽く手を上げて歩き出した。今度は引き留められなかった。



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