二人の朝食
セスは神殿の一角で見知らぬ老人と朝食を頂いていた。
神殿の制服を着た老人は硬いパンをジャガイモのスープに浸して食べている。
「・・・あんたは、誰なんだ?」
「ああ、わたしはここの前の神殿長だよ。そなたはどうしてあんな場所に隠れていたのかね?」
「この神殿の不正を調べていた。一応許可は得ている」
「ほうほう、こんなに小さいのに大変なことだの」
「・・・子どもではない」
腹が空いていたのかセスも遠慮なく食べるが、その様子がどこか幼く見せる。
「それで、成果はあったかね」
「あんたも見ただろう」
「悲しいことだ」
老人は本当に悲しげに言った。
「街の者たちはどこへ行ったのだろうか」
「別の街の神殿に避難しているらしい。今日の昼にでも戻るだろう」
淡々と言うが老人の様子が気になるのか、セスはなんども男の顔を見た。
「あんたはこれからどうするんだ?」
「わたしは・・・ここの神殿長ではなくなってしまったからね。どうにもできんよ」
食べ終わったセスは口元を軽くふくと一つ頷いた。
「これだけのことをしでかしたんだ。ここは今後大変になる。あんたみたいに経験のある人間が立て直した方が良いように思う。必要なら王都の神殿長に陳情書を出すこともできる」
老人はそっと首を振った。
「いつかこんなことになるとわかっていて、ここを捨てたのだ。わたしはもう、ここにはいられないよ」
聞けば老人は、数年前に現在の神殿長に追い出されたようで、現在は遠くの街の神殿で暮らしているらしい。しかしずっと気になっていた彼は海賊に街が度々襲われていると聞きこっそり様子を見に来ていたのだ。昨晩の神殿の様子を不審に思い勝手に中に侵入した彼は、そこで大量の武器と、出るに出られず困っていたセスを発見してしまった。
「ならどうする」
「・・・王都の神殿長は変わったと聞くが」
「そうみたいだな。神殿長でありながら迷い人を強引に妻にしようとして排斥された」
老人がとうとう頭を抱えてしまい、セスはギョッとしてのけぞった。
「おい、大丈夫か?」
「その迷い人は無事だろうか」
「あー・・・うん。無事だ。大丈夫だ」
むしろ彼女をどうこうできる人間などこの世界には存在しないだろう。
「そなたは神殿長と連絡を取れるといったね」
「ああ。必要ならば手助けできる。あんたがここをどうにかしたいと思うなら、手を貸そう」
老人はセスをまじまじと見つめた。
「何故そこまでしてくれる?」
「この街を、迷い人は気に入ったようだったからな。まあなんだ、暑苦しい連中が多いが、俺も嫌いじゃない」
あの美しいプリーティアの横顔を思い出して、そっと口元に笑みを浮かべたセスに老人は、ホッと息をついた。
「では一つ、頼まれてくれるかい」
「了承した」
セスはまっすぐに老人を見つめて頷いた。




