その頃騎士団の団長たちは・・・
「少しは俺を尊敬しないのか」
「尊敬していますよ、よくもまあこんな夜まで半裸でいられることで」
騎士団は燃える港を見ていた。海賊船が近づいていることに気付いた時から街の住人は非難させている。他の街ならば神殿に助けを求めることが出来るが、この街の神殿は信用できないため、少し離れた別の街の神殿に依頼した。
かの地の神殿は、慣れた様子で街の人間を受けれいれてくれた。
なんとも情けないことだ。
「あの娘、どう思った?」
「淑女とは言えませんね」
「いや、プリーティアだから淑女でなくていいんじゃないか?」
即答する部下に苦笑しつつアンドレアは視線を海に向けた。街が焼かれるのはこれが初めてではない。過去にもアファナーシー・ニキータに焼かれたことがある。たくさんの人の人の命や財産。それから矜持を奪われた。
エドアルド・ジャコモは冷静を装う上官を見た。いつも通りの半裸に、彼の愛刀が腰に下げられている。彼の愛刀は右に、左にはフリントロック・ピストル。飴色のそれは本来なら騎士が持つものではない。しかし相手は何でもありの海賊だ。
エドアルドもアンドレアの下に着いた時からピストルを扱うようになったが、未だに違和感はぬぐえない。それでもそれを使わなければ勝てない相手なのだ。
「あなたはどう思われたのですか」
「・・・得体が知れない」
「は?」
「あの黒い目がどこを見てるのかわからん。アファナーシーはわかりやすい。奪う人間の目だ。それを楽しむ目だ。だがあの娘はわからん」
アンドレアは淡々と言葉を紡いだ。
「最初は俺もローレライってマジでいるんだと驚いたがな。あの娘は俗物だった。話してみると頭も良いし、一見人当たりも良い。野郎どももいつの間にか懐いていたしな。だが会う度に印象が変わる。最後に見せた顔覚えてるか」
エドアルドが頷く。
「あの海賊に対して、あんな顔をするとは思いませんでした」
数時間前。一見か弱いプリーティアは、ピンクの髪の海賊をとても冷たい目で見ていた。
自分のものに手を出したらあなたでも容赦はしないと脅した時の顔は、決して聖女ではなかった。むしろ誰よりも冷徹に見えた。
「私はずっと、あのゼノンと呼ばれる男が彼女を守っていると思っていました」
「だが実際は逆だ。あの男やセスを守っているのは、あの娘だ」
肉体的には弱くても、彼等の精神を支えているのは間違いなく彼女だった。
アンドレアはピストルを持ち上げた。
「お前、いい加減これにも慣れろよ」
「・・・善処いたします。ですから、いい加減鎧を身に着けてください」
「えー」
「実は私、最近新しいレターセットを王都から取り寄せまして。いやあ、羊皮紙よりもペンが滑らかで書きやすい」
アンドレアがとても爽やかな笑顔を浮かべて振り向いた。
「よーし野郎ども!しっかり鎧を着こんでおけよー。そろそろ来るぞー」
二人の後ろから野太い男達の鬨の声が響いた。
長い夜は始まったばかりだ。




