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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
43/203

己だけ逃がされる気持ち

「ユーリは、とても厳しい人だ。でもユーリに認められると嬉しい。俺は初対面で投げ捨てられたし、無理やり風呂に入らされたし、無理難題を十日で解決しろと命令された」

 ゼノンに投げられて風呂に入られたのだが、命令したのは百合だった。

 あの十日間を忘れることはない。自分の至らなさで死んでしまった老人を。その老人のためにたった一人で花を摘んできた女がいたことを。

 彼女だけは人前で涙を流さなかった。けれどセスは気付いていた。泥だらけになった彼女の頬に、涙のあとがあったことを。

 人前では優しい笑みをたたえ、人々に安らぎを与え続けた彼女の強さに尊敬した。

「ユーリはとても優しい。優しくて、多分誰もが気付かないうちに無理をさせている。だから俺は、アファナーシー・ニキータという男を近づけさせるわけにはいかない。あの人を、これ以上悲しい目にあわせたくない」

「はい、僕も同じ気持ちです。君はこれからどうするんですか?」

「俺は植物を故意に繁殖させた理由を突き止めたい。ある程度の予測は付いているが、まだ確固たる証拠がないんだ」

 フェルディが顎に手を当てて頷いた。

「あの植物は本来この国のものではない。わざわざ繁殖させたのには必ず理由があるはずです」

「実はしばらく前、西の方で植物を使った犯罪があった。もしかして何か関係があるかもしれない」

 その時の犯人である錬金術師は国外逃亡をはかり、まだ捕まっていない。

「犯罪?」

「探している錬金術師がいる。海賊が何か情報を持っているかもしれない」

「情報なら僕が集めましょう」

 は? と顔を上げれば、にやりと笑ったフェルディが居た。

「あんたでもそんな顔をするんだな」

「僕らはこの国で海賊行為をしない代わりに、各地の情報を売って稼いでいます。結構良い稼ぎになるんですよ」

 意外に思いつつもセスは頷く。

「いくらかかる。俺の研究費はあまり・・・いや、金はなんとかするが」

「お金よりも欲しいものがあります」

「・・・俺やプリーティアの情報は売らないで欲しい」

「もちろんです。それよりも」

 フェルディが提示した条件を、セスは迷わず飲み込んだ。

 そしてその夜。予想していたよりも早く、恐ろしい海賊がやって来た。




 

「プリーティア、そろそろ出発いたしませんと」

 百合たちは小さな街に立ち寄っていた。

 必ず追いつくと言うセスの言葉を信じた百合は、わざとゆっくりとした工程で進んでいた。

 困ったのは王都の神殿から迎えに来た者たちだ。

「わたくし、疲れてしまったわ。連日情報を集め歩いていたわたくしたちに、急に王都へ戻れなんて・・・酷いわ」

 ふう。なんてため息をつき足を組むと白く滑らかな足が見える。

 狭い馬車の中でそんなものを見せられたら、目のやり場に困ってしまう。

「今日はこのあたりの宿場を探しましょう」

 ゼノンが言えば、迎えに来た他のプリーストがうろたえた。一刻も早く戻ってくるように言われているのだ。

「そんな、しかし・・・」

「なんだか気分が悪いわ。あの街の熱さにやられてしまったのかしら」

「頑張っている時は気付かぬものです・・・プリーティアのためにも休みましょう」

 ゼノンはそう言って、強引に行程を遅らせた。

 そして、宿を確保した百合は仮病をごまかすためにベッドへ入った。

 小さな街で、しかし一番大きな宿に泊まることになった一行には、もっとも豪華な部屋が宿の好意で与えられた。その中でも一番小奇麗な個室に百合は案内された。ゼノンを含め他のプリーストは隣室に纏められ、驚くほどの待遇の違いにゼノン以外の者たちは、やはり彼女は特別なのだと思い知る。

「百合、大丈夫ですか」

 どこか居心地の悪い部屋を看病という名目で抜け出したゼノンは、心配そうな顔でベッドのふちに腰かけた。

「大丈夫よ、ただの仮病だもの。まさかこんなに簡単に騙せるとは思わなかったけれど」

「あなたの希望はなるべく叶えるつもりなのでしょう。情報では、明日にはアファナーシー・ニキータが街に入るとのことでしたが、相手は海賊。常識は通用しません。用心に越したことはないと判断したのでしょう」

 王都の若きエメランティス神殿長・ヨシュカ・ハーンから届いた書状には、急ぎ王都に戻り報告をしろということだった。南の神殿の不正を送ってからすぐのことなので、海賊に襲われることを心配したのだろう。

「わたくしが、迷い人だから?」

「迷い人は売買の対象になります。あの若き神殿長が心配するのは当然でしょう」

 百合は体を起こした。ゼノンが音もなく支える。

「わたくしだけ逃がすのね」

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