最近男にモテモテなゼノンさんの眉が・・・
フルーツとヨーグルトのジュースが飲みたいと言って、百合はカフェに来ていた。今日はゼノンも一緒だ。
港のカフェに入った百合たちを、慣れた様子で店員が案内してくれた。
「ええっ! 帰っちゃうの!?」
「ええ、明日戻ります」
会話もなく飲み物を楽しんでいた二人の前に、ピンクの髪をポニーテールにしたガルテリオたちがやって来て、何故か断りもなく席に着く。
「西にお戻りになるのですか」
フェルディもゼノンを気にしつつ席に着いた。
ゼノンは現在フードを深々と被り、二人に挨拶することもなく水を飲んでいる。甘いものはどうかと勧められても「苦手だ」の一言で断ったのだ。
「ところでぇ、こっちの彼がもう一人の連れ?」
「ええ、ゼノンよ」
「お顔を拝見したいわぁ」
ずいっと手を伸ばすガルテリオを、ゼノンは音もなく避けた。座ったままで器用なことだとフェルディは感心する。
「ごめんなさいね、彼は恥ずかしがり屋なの」
「んもう! 照れなくていいのよ、このお姉さまに素敵なお顔を見せて頂戴!」
伸ばされた手を、今度は片手で薙ぎ払った。
「・・・お姉さまとは、女性を指す言葉ですが」
「心は女なの!」
「それにしてもプリーティア、急ですね。まあ海賊のこともありますから、僕としては安心です」
二人の攻防を横目にフェルディが優しく笑みを浮かべた。
「あなたも海賊だわ」
「この街で海賊と言えばアファナーシー・ニキータです」
百合はジッとフェルディを見つめた。
「あなたは、その男を待っているの?」
「ええ」
二人はしばらく見つめ合った。そこには暖かさなどないが、冷たさもない。まるで海を見ているようだとお互いが思った頃、ゼノンが百合の壁のように立ちはだかった。
「・・・君から奪ったりしないよ」
「その時は海の上で殺して差し上げます」
きょとんと眼を瞬かせ、ふっとフェルディが笑った。
「職業間違えてない?」
百合がふっと笑った。フェルディがわずかに目を見開く。
「そんなことより、良い声よねえ。ねえ、ゼノンって呼んでもいい?」
「断る」
「ああんっ! もう一回言って! 素敵よ、今の声」
フードの中でゼノンの眉が深く寄る。
「西に帰られるのですよね。僕は、この国の西の方はあまり行ったことが無いんです」
「・・・まずは王都に用があるの。けれどすぐに西に帰ります。西のヴェステンは花と緑の街。とても美しいのよ」
ぜひいらして。と微笑めば、フェルディが頷いた。
「ありがとうございます」
にこにこと穏やかな空気を醸し出す二人の前に居るゼノンは微妙な顔だ。
「プリーティア、そろそろ騎士団へ戻りましょう」
「そうね、セスを迎えに行かなくては」
百合とゼノンはすでに神殿を出ていた。昨夜の件もあり早朝には旅支度を整えて騎士団に身を寄せていた。
「セスってだあれ? 男の子?」
「ええ、とても綺麗な子よ。会ってみる?」
「いいの!?」
ゼノンが一瞬ためらうようなそぶりを見せたが口を閉ざした。
「では、参りましょう」
そうして四人は騎士団へ向かった。




