未亡人好き・・・?
どうしたら還俗できるのか、という問いだった。
百合は少しだけ目を細め、それからふっと遠くを見た。
還俗の方法はプリーティアになる前に注意事項として聞いていたが、必要になったらまた聞けばいいと思ってあっさり忘れた。そもそも離婚という概念があるのだろうか・・・
遠くを見つめる百合を、ガルテリオが厳しい目で見つめた。
「・・・ガルテリオ。もう一口くださいな」
百合が彼をもう一度見たとき、その顔には優しい笑みが浮かんでいた。
「・・・はあ、わかったわ。はい、あーん」
あーん、と美味しそうにケーキを食べた。
「おいしい」
「よかったわね。でも、あたしはあんたを諦めないわよ。あんたにはフェルディの嫁にするからね」
きょとんと百合が首を傾げる。フェルディとエドアルドが石造のように固まった。
「フェルディは、未亡人が好きなの? あ、少し違うか。傷物が好きなの?」
ぶっふぉ! と間抜けな音が店内に響いた。
「げほっ・・・ぐっ・・・ごほっ、ごほっ!」
苦しげに咳をするフェルディの背中をガルテリオが優しく叩いた。
「ちょっと、大丈夫? もう、このくらいで情けないわね」
「どうしましょう。わたくしは神々の妻ですから、離婚は生きている間は難しいわ。でも包容力があって経済力があって美人の未亡人なら紹介出来るわ」
百合が本気になって掛け合えばいくらでも人を呼べる自信があった。
その本気を見て取ったのだろうエドアルドが、怒りと呆れを隠さない眼差しで彼女を睨み付けた。
「淑女が、はしたない発言はお控えください」
「あら、どうして? 人々に癒しと希望と安らぎを与えるのはわたくしの使命だわ」
「では言い回しに気を付けて下さい。下品です」
店内に居る他の客たちが固唾を飲んで見守っている。このまま副騎士団長の機嫌が悪いままなのも、神殿のプリーティアを怒らせることも、海賊には見えないが実はそれなりに名の知れた二人が居ることも、客たちにとって面白くない見世物だ。
ふふ、と鈴のような声が転がった。
「あなた、前にもわたくしを淑女と言いましたね」
「それがなんです」
「でも思い出したようにプリーティアと呼ぶ」
ぎゅっとエドアルドの眉が深く刻まれた。
「あなたは・・・」
神殿が嫌いなのですね。
まるで慈しむ様に呟いた言葉だった。




