神様との離婚
「ガルテリオ、わたくしそちらも食べたいわ」
「はい、あーんして」
あーん、と口を開けると、斜め後ろに立っていたエドアルドがわざとらしく溜息をついた。気にせずケーキを口にした。
騎士団に足を踏み入れることを拒否したフェルディは、代わりに先日行ったカフェに案内した。
色とりどりのフルーツをふんだんに使ったタルトをガルテリオが頼み、紅茶のケーキを百合が頼んだ。フェルディの前にはチョコレートケーキとフルーツとヨーグルトのジュース。エドアルドも何かと言われたが職務中なのでと断った。
「ねえユーリ、あなたの髪とても綺麗ね。いつも手入れはどうしているの?」
「連れがしてくれるの。髪が傷まないように、毎晩香油を馴染ませてくれるのよ」
まるで女友達がお喋りするように楽しげに話す二人に、背後から無言の殺意を感じながらフェルディは口を開いた。
「そういえば、プリーティアのお連れの方も神殿の方なのですよね。その方は外に出られないのですか?」
ちらちらとエドアルドを見やり、その度に顔を逸らすフェルディ。百合はふっと笑みを浮かべた。
「やはり、西とこの街では雰囲気も大分違うから、お疲れなのでしょうね」
「うーん・・・そうね、騎士団に顔を出してから元気がないわ。初対面でたくさんの男性に体を触られて怯えていたわ。あんな姿初めて見た」
「セクハラじゃない!」
「あの集団にショックを受けたんですね、よくわかります」
エドアルドはわずかに眉を寄せたが何も言わない。
「酷いわ、か弱い女性の身体に触れるなんて!」
ガルテリオがエドアルドを睨むと、それ以上に冷たい視線が突き刺さった。
「相手は男だ。か弱い女性に手を出す馬鹿はさすがに居ない。居たら殺す」
絶対零度の眼差しが店内の温度を五度は下げた。
「・・・では、プリーストだったんですね」
「ええ、わたくしの護衛を務めているの。けれど・・・今は神殿にいるわ」
ふう、と溜息をつくとちらりとエドアルドを見上げた。男はまるで睨み返すように百合を見る。
「プリーティアも無駄に外に出るようなはしたない真似は止めて頂けると、こちらとしても楽なのですが」
「それは出来ないわ。わたくしは王都の神殿長に頼まれているもの。これはわたくしの役目なの。面倒ならばあなたは来なくて結構よ」
くすりと笑う女にエドアルドの額が青筋立ったが、彼は口を閉ざした。
「神殿長ってどんな人?」
「綺麗な男の子よ。前任者の不正で、早く出世したの」
「年齢は?」
「さあ・・・聞いた様な気がするけれど、わたくし達にはそういう概念はあまりないから」
興味のない相手の事はとことん気にしない女。それが百合だ。
「ねえ、プリーティアは神様の奥さんなんでしょう?」
「はい」
「どうやったら神様と離婚できるの?」




