許されない恋だそうです。
百合がフェルディと再び見えたはその二日後の事だった。
護衛役を務めるエドアルド・ジャコモと馬で遠出をしていたら、前から統率のとれた一団が歩いてきたのだ。先頭にはフェルディ・イグナーツがおり、その隣には派手なピンクの髪の巨漢が居た。何故かフリルのレースたっぷりの服を着ている。
「こんにちは、フェルディ」
百合がフードを取ると、フェルディが気付いて優しく目を細めた。
「こんにちは、プリーティア。副長殿も」
フェルディがエドアルドに軽く手を上げると、彼はわずかに頷いた。
「あらぁん、エドアルド・ジャコモ。あなたの素敵なお頭さんは、今日は居ないのかしらん?」
エドアルドがピンクの髪のガルテリオ・ダリを見たが、それは一瞬だった。まるで何も聞いていないという風に完全に無視する。
「ちょっと! 無視すんじゃないわよ!」
エドアルドに怒鳴りつけるガルテリオに、フェルディが呆れたようにため息をついた。
「こんにちは、初めまして。あなたも海賊さん?」
百合が笑みを浮かべて挨拶すると、ガルテリオが今気付いたとばかりに目を輝かせた。
「まあ! なんて可愛い子。あなたお名前は? あたしはガルテリオ・ダリ。マーレ号の副船長をしているのよ」
うふんと笑って腰をくねらせた巨漢に、百合は楽しげに笑った。
「わたくしは西のエメランティス神殿から参りました、ユーリです。ガルテリオとお呼びしてもよろしいかしら?」
ガルテリオは一瞬目をカッと大きく見開いた。隣に居たフェルディが驚いて肩を震わせる。しかし次の瞬間には感動したように笑った。
素早い動きで百合の前まで来てその白い手を握ると、驚く程無駄のない動きで彼女を己の腕の中へと引きずり込んだ。
これにはエドアルドも驚いて取り戻そうとしたが、彼が手を伸ばした時にはすでにフェルディの隣に戻っていた。
「フェルディ、この子うちで飼っていい!? ちゃんとお世話するから!」
「え? は!? いやダメだろう!」
百合は状況についていけず呆然とガルテリオに担がれていた。
とりあえず思ったことは、
「凄いわ、力持ちね。それに足も速いのね」
ということだった。
「プリーティアも簡単に相手を信用しないで! わかっていますか、これは海賊です!」
「あら、これだなんて失礼しちゃうわ」
「そうでした。海賊さん、そろそろお腹が痛いので降ろしてくださいな」
のんびりした二人に追いついたエドアルドが、珍しくムッとした顔で百合に手を伸ばした。フェルディがその顔に驚いて百合をガルテリオから奪い取る。あと一歩の所でフェルディに邪魔されたがエドアルドは、怪訝そうな顔で口を開いた。
「何の真似です」
「いや、なんだか怖い顔をしているので・・・つい」
つい、ではない。
「海賊風情が触れて良い存在ではありません」
「そうなんですけど・・・あなたの顔も十分海賊になれそうですよ」
フェルディも言いつつ混乱していた。
二日ぶりに触れた百合は、相変わらず細くてか弱い。それに何だか良い香りがして女性を意識してしまう。
「フェルディ。そろそろ離して欲しいのだけど」
「すみません、プリーティア。しかしプリーティアが簡単に名乗ったり担がれたりするのは如何かと」
「ガルテリオは素早いのね、驚きました」
「いえ、だからそこではなくて・・・」
フェルディがため息をつきつつ、まるで庇う様に己の後ろに百合を隠した。その様子にエドアルドが眉をひそめる。
「マーレ号船長。我々を敵に回すおつもりか」
「いえ・・・ああ、そうだ副長殿。少し良いだろうか、アファナーシー・ニキータの件で話がある」
「・・・今は困ります。プリーティアを騎士団に戻してからです」
あら、とガルテリオが驚いたように口を開いた。
「神殿じゃなくて騎士団なのね」
エドアルドが表情を消した。
「・・・プリーティア、こちらへ」
「わたくし、もっとガルテリオとお話ししたいわ」
百合がそう言えば、エドアルドが反射的に言った。
「駄目です」
まるで反論を許さないと言う意志があった。百合の瞳がスッと細められる。しばらくエドアルドを見つめ、静かな声で言った。
「・・・ねえ副長さん。わたくし、あなたの部下ではないわ」
「あなたの護衛を命じられています」
「わたくしは、あなたに守られたいわけではないわ。プリーティアという存在は神々によって守られる。人間ごときがわたくしを傷つけることは出来ない」
どちらも譲らない姿勢に、ガルテリオが慌てた様に言う。
「じゃあ、騎士団でお話ししましょうよ! お頭さんも一緒なら皆安心でしょ?」
「何故海賊風情をそう何度も招かなければならないのです。それに、お前の目的は団長だろう。この変質者が」
「まあ! 失礼しちゃうわ!」
変質者? と百合が首を傾げると、フェルディが小声で教えてくれた。
「ガルテリオはアンドレア・カルロに惚れているのです」
「・・・あら・・・まあ・・・大変」
一瞬、誰が誰に惚れているのか理解できなかったが、思わず呟いた。
「そうなの! 許されない恋なの!」
「そうねえ、敵同士の恋なんて・・・なんだか物語みたいだわ。どうかしら、どうせならお頭さんを強奪して海に逃げると言うのは」
「それはもうやったわ。でも彼・・・あたしより強いのよね」
目が死んでいたと、のちに百合が語った。
いつもありがとうございます。更新不定期で申し訳ありません。




