表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
33/203

騎士団なんて目じゃないぐらい紳士的な海賊たち

 フェルディは騎士団を無事に出ると、仲間のもとに戻った。

「いやだわフェルディ! 無事だったのね!」

「おかえりなさい、フェルディさん」

「フェルディさん、災難でしたね」

 仲間たちは苦笑しつつもフェルディを労わってくれた。港での一件はすでに周知されていた。

 港に来るたびに半裸の集団に絡まれるフェルディには同情的だ。

 フェルディは居たたまれなくなって自室へ急いだ。

 フェルディ・イグナーツは海賊船マーレ号の船長をしている。マーレとは海という意味を持つ言葉で、名前自体は適当につけたものだ。

 彼はもともと海軍に属していた。遥か西の国の軍隊だ。十五で兵役に入り、家柄もあって十八には大尉として中隊を率いていた。ある事件をきっかけに家族を失い、軍人であることをやめた。部下がついてきたことには驚いたが、一番己が驚いたのは海賊になったことだろう。後悔はない。しかし、部下を巻き込んでしまったことはしばらく悩んだ。

 自室には海図がたくさん置いてある。それは全て海軍時代に部下が調達したものを複写し、保管してあるものだ。その中の一枚を取り出す。

「フェルディ、ちょっといいかしら?」

 ショッキングピンクの長髪を緑色のレースのリボンで一つにまとめ、真夏の太陽のように輝く金色の瞳の男は、腰をくねらせながら入室してきた。

 全体的に筋肉質で背も高く、フェルディより頭二つ分は確実に上だ。フェルディは自然と彼を見上げた。

「どうかしたか、ガルテリオ」

「見てたわよ」

「うん?」

「港で女と居たでしょう」

 ああ、とフェルディは頷いた。

 彼女のことを思い出す。美しく儚い女だと思った。

「西のエメランティス神殿から来たプリーティアだよ。崖を一人で歩いていたから声をかけたんだ。危ないよな」

 フリルがふんだんに縫い付けられた制服を着て、腰に手をあてた男が呆れるように言った。

「それだけ?」

「どういう意味だ?」

「じゃあ、彼女の名前は?」

「プリーティアだろう?」

 プリーティアはあくまでも名称だ。決して名前ではない。けれど本来、神殿の者やそれに近いもの以外名乗ることのない彼らの名前など、誰も気にしない。

「まさか、名前も聞いてないの!?」

「・・・だから、プリーティアだろう?」

 ガルテリオはわざとらしくため息をついた。

 そもそも神殿やプリーティアという存在にあまり関心がない彼は、綺麗なものや可愛いものが大好きで、心は女だと豪語している。常に女装し、言動に気を使いう彼だが、戦闘になると誰よりも凶暴な働きを見せるので多くの部下に恐れられている。

「もう、あなたこのままじゃ一生独身よ?! そろそろ可愛い恋人ぐらい作りなさいよ!」

「僕より六つも年上の独身が目の前に居るから焦れないんだよ」

 はは、と爽やかに笑うと、また目線を落とした。海図を真剣に眺めている。

「ガルテリオ、アファナーシー・ニキータと神殿の件は間違いないんだな?」

「ええ。神殿はアファナーシーと物々交換で武器を手に入れているわ。神殿にとって大切だろう宝物を、あんな男に渡すなんて有り得ないわよね」

 そう言いつつ、ガルテリオは呆れた顔だ。

「・・・今後、接触は」

「必ずあるわ。アファナーシーは今、世界中のお宝を探している。どうも欲しいものがあるみたいよ。それを手に入れるには莫大な金が必要なの。どんなものだって、奴は必ず手に入れるわ」

 海賊と言えばアファナーシー・ニキータ。アファナーシー・ニキータと言えば略奪者だ。

 欲しいものはどんな方法を使ってでも手に入れる。その非道なやり方には同業者ですら顔をそむけるものがある。

 現在アファナーシーは己の欲するもののため、金銭を集めているという噂があった。

 神殿が所有するものは高額でやりとりされる。それは本来俗世に出てこないものだからだ。そんなものをアファナーシーが手に入れたら、どれだけの金が動くだろうか。

 アファナーシーが手に入れたいものが何か、フェルディには予想がついていた。

「今、神殿には別の神殿のプリーティア達が滞在している。その一人は迷い人だ」

「え!?」

 フェルディは美しい横顔を思い出していた。

 崖で見た澄んだ瞳。甘いジュースを飲んだ時のホッとした顔。騎士団の中で見せた悲しげな姿。

 それは時間が経っても鮮明に思い出せた。

 白い肌に絹のような黒髪。宝石のような黒い瞳。傷のない指先。形の良い唇や、花のような甘い香り。高貴な雰囲気を纏う女。

 もしもアファナーシーが彼女を見つけたら・・・

「まずいじゃない! 迷い人は高価な商品として売り買いされてきた歴史があるのよ! しかも相手があのアファナーシーなら、絶対に狙われるわ!」

「・・・ああ、分かっている」

 彼女は神殿から離れる気はないようだった。

「その人、何とか出来ないの? そもそもどうして迷い人が神殿に?」

 フェルディはとても寂しそう口を開いた。

「神殿の在り方を変えたいそうだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ