荷物を運ぶように運んできました!
どれほど眠っていたのか、次に目覚めた時は何故か朝だった。
「いやいや、何よこれ、どこよここ!?」
流石の百合ですら混乱するのは、明らかに己の失態以外の原因が考えられる眠りの深さだった。
「あんた、わたしに何をしたの!」
「途中で起きてもらっても困るので、ガルテリオより奪った海賊特製の眠り薬を使いました」
「なんで?!」
「だから、途中で起きられても困るんですよ。いくつか関所を越えなければならなかったので、あなたがいたら目立つんです」
それにしてもこの扱いは酷くないだろうかと、痛む頭を抱える百合は、本当に物理的に痛いそれに気付いた。
「この薬、頭が痛いのだけど」
「海賊御用達ですので容赦のない製品なのでしょう。何度か試しましたが人体に悪影響が残ることは在りません」
誰で試したのかは怖くて聞けない百合は、無言で差し出された水を飲み干した。羊の皮袋に入っているが臭みはない。
「で、ここはどこ」
「目的地まであと少しというところの、山中です。正確な場所は・・・ああ、今はこのあたりですね」
うっそうとした森の中で目覚めたばかりの彼女は、ゼノンが見せる地図を確認して驚いた。
「あんた、まさか目的地がこことか言わないわよね?」
地図の一点を指し、恐る恐る問うてみると、極悪人とも呼べる笑みが返ってくる。
「いくらなんでも無茶じゃないの」
「木を隠すなら人の中というでしょう」
「あんたは入れるの」
「ここならば大丈夫だということは確認済みです。ヴェステンほどの結界はありませんでした」
しれっと言い切ったゼノンを信じられない思いで見つめ、そして百合もにやりと笑った。
「でもちょっと楽しくなってきたわ」
「・・・ああ、そうですか」
「とりあえずお腹が空いたわ。馬車は?」
「先に向かわせました。食事は・・・これを」
パンにハムを挟んだだけの簡単なサンドウィッチを差し出され、百合は遠慮なく受取るとかぶりついた。ハムの塩気がたまらなく美味い。
「あとトイレ行きたい」
「まあ・・・そうでしょうね・・・・・・」
「で、今夜はちゃんとマッサージしてよ。もう腰やら背中やらが痛くてたまらないわ。足首もなんか痛いし。いや全身痛い。あんた、本当にどんな運び方したのよ?」
ゼノンはその質問には答えなかった。
さすがに、麻袋に入れて肩に担いで運んできましたとは口が裂けても言えなかった。




