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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
187/203

それでも、心安らぐ場所

 だいたいにして、出来過ぎていたのだ。

 百合とバッカスが神殿から出た直後、黒ずくめの男たちが現れ、黒い馬車に無理やり乗せられた。

「思ったよりも早かったですね、団長」

 驚いた様子もなくバッカスが言えば、聞きなれた声が返って来た。

「お、おまえら・・・! もうちょっと後の予定だっただろう!?」

 肩で呼吸している黒い男。騎士団の制服を脱ぎ、全身黒で固めたオースティン・ザイルは、恨めしそうに二人を睨んだ。

 万が一を想定して、二人のために寝ずの番をしていた彼は、突然外に飛び出してきた二人を見て大慌てで馬車を走らせたのだ。

 御者台には見慣れた騎士が、こちらもやはり黒い恰好で座っている。バッカスと目があうと、人好きのする笑みが返って来た。

「だって、なんか逃がしてくれそうな感じだったから、逃げてきちゃった」

「そんなに慌てなくても大丈夫よ。きっと追ってはこないわ」

 しらっと答える二人の額を軽く叩くと、御者に命じる。

「とりあえず適当に迂回して湖へ迎え」

「はっ」

 ふーっ、と長いため息をつくと、本当に心配そうに大丈夫かと問うてきた。

「ええ、問題ないわ」

「怪我もないですよ」

 しばらくして美しい水辺で、百合とバッカスはゼノンに再会した。

 普段はぴちぴちと可愛らしい鳥の声が響き、時折音を立てる水面に心を癒される場所なのだが、恐怖を覚えるほどの静けさに包まれていた。

 小心者ならば夢に見るだろう。例え心臓に毛が生えていようと、彼の怒気におののいて下がるだろう。

とても機嫌の悪いゼノンがそこに立っていた。

 赤い瞳を細め、口元は弓の形をして笑みを浮かべているが、いかんせん恐ろしい空気を身にまとっている。

 バッカスがごくりと喉を嚥下して一歩下がった。

「・・・じゃ、僕の役目は終わったから。たまには会いに行くよ、元気でね」

「え、ちょっと。こんな人の前に置き去りとか、酷過ぎるわよバッカス!」

 足早に去っていくバッカスと一行に、状況を理解した瞬間置いて行かれた。

「だれが、こんな人・・・でしょうか?」

「い。いやねえ、気のせいよ」

 これはかなりヤバい。

 いつになく百合は緊張した。こんなにも己に向けて怒るゼノンは珍しい。

「ほう、では、なにが酷過ぎるのでしょうか?」

「ふふ、それよりゼノン、どうしてここに?」

 笑ってごまかすが相手に通用するはずがなかった。

「逃げた女を捕まえに来ましたが何か」

「別に逃げたわけじゃないわ」

 内心舌打ちする。

「あれを逃げと言わずになんというのですか」

「しょうがないでしょ、他に道がなかったんだから!」

 お互い睨みつけ合うと、先に視線を逸らしたのはゼノンだった。

 勝ったと思った瞬間、百合の身体はゼノンに抱え込まれ、そのまま離れたところにいた小さな馬車に乗せられた。御者台には見覚えのない男が座っている。

「俺では目立つので、人を借りました」

 馬車の中は物であふれており、百合は瞬きしながらそれに乗せられた。

 そんな再会を思い出し、またため息が出た。

「目的地はどこなの?」

「着いてのお楽しみです。暇なら俺のために歌でも歌いなさい」

 そこは休めというところだろうと思ったが、何かを期待するような目で見つめられていることに気づき、彼女はそっと歌いだした。

 優しい音色は子守唄の代わりになったのか、ふと見下ろすとゼノンが寝息を立てていた。

 無防備な姿に驚きつつ、目元に増えた皺を見て少しだけ愛おしく思く。

 七年という月日は様々なものを百合から奪った。ゼノンもバッカスも、そしてオースティンも変わったように見える。大変なこともあったのだろう、それでも待ち続けてくれた彼らに感謝している。そして、ほんの少しさみしい。

 百合はそんなことを思いつつ、彼の鎖骨にそっと頭をのせて瞳を閉じた。

 


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