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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
185/203

手を取って歩き出した



 夜も更け、神殿内を包み込む静寂が深くなった頃、突然強い眠気に襲われたプリーストや監視が、一人、また一人と眠りに落ちる。

 明りを消した部屋の扉をわずかに開け、外をの様子を確かめるバッカスは音もなく部屋から出た。

「一応神殿を出るまでの護衛は僕だから。あんまり無茶はしないでね。この薬、使用できる範囲もそう広くないんだ」

 いざという時のために、セスが用意していた睡眠を誘う薬を掲げると、己らがかがないように口と鼻を布で覆った。

「わかったわ」

「今更だけど、本当にいくの?」

「今更ね。いくわ」

 迷いのない言葉に溜息をつき、どこで習ったのか足音を完全に消して歩き出したバッカスに、百合は一生懸命ついて行った。

 足音を消すのは結構筋力を使うためか、ふくらはぎからふとももがプルプルと震える。

「ゼノンに習わなかったの?」

「ゼノンがいればこんな技術必要ないもの」

 呆れた様に言われ、むっとして言葉を返す。

「止まって、また人が居る。今眠らせるから・・・・・・・・あ」

 交代で見張りをしていたプリーストの一人に見つかり、相手は驚いて言葉を失ったようだった。

 口を開けた瞬間、落ち葉色の瞳が目の前に迫った。

「ごめんね」

 ゴッ、と鈍い音がプリーストの服によって消される。バッカスの手には黒い棒状の筒が握られていた。

「やるじゃない!」

「あのね、あんまりこんな手荒なことはしたくないの。もう、気を付けてよ?」

「今のはバッカスのせいでしょ」

「・・・・いこっか」

「ええ、いきましょう」

 月夜が輝く時間帯の神殿はとても美しく神秘的で、こんな時だというのにバッカスは少しだけ景色に見入った。

 その後、三人ほど薬で眠らせると目的地へ到着した。

「お邪魔するよ」

 扉を開けたのはバッカス。その先には疲れた顔でヨシュカ・ハーンが座っていた。

「何故だろうか、こうなるような気がしていた」

 部屋の中は、昼間も来たはずなのに、夜ではまた違う雰囲気を見せる場所だ。

 昼間よりも近寄り難い場所に思えるのはバッカスだけだろうか。

「あなたにお別れを言いに来たの」

「・・・もう行ってしまうのか?」

 まるでその言葉を予測していたように、弱弱しく微笑んだ。

 部屋に明りはなく、月明かりだけが彼を照らしている。その姿はどこか浮世離れしており、綺麗なものを見慣れたバッカスでさえ息を飲んだ。

「ええ。いくわ」

「・・・ずっと、ここに居ればよいではありませんか」

「あなたの望む、わたくしにはなれないわ、ヨシュカ」

 ふっと笑う彼の瞳は遠くを見ているようだッた。

「この七年、あなたの事をいつも考えていました。わがままで聖女とは程遠い人。だのに、神々はあなたを好んでいる。あなたがこの世界に呼ばれたわけを、考えていました」

 理由なら百合だって探した。だが、誰もが納得できる理由、そんなものはないのだ。

「わたくしも考えたわ。だから、答えはここにはないの。わたくしはここにはいられない」

「答えが欲しいなら私が作ろう」

「無理ね、わたくしはもう作ってしまった後だもの。・・・あなたではない」

 求める者はヨシュカではないと言い切り、すっと一歩前に出て淑女の礼をとった。

 ぱさり、とスカートが床に触れて音を立てる。目上の者に対する礼だ。とても美しく無駄のない動きに、珍しくバッカスが感心したところで百合は顔を上げた。

「ごきげんよう、ヨシュカ・ハーン神殿長。あなたが本当の神殿長となりえたその日には、きっとまた、お会いしましょうね」

 ヨシュカは何も言わず頷き、そっと百合から視線を外した。

 バッカスは百合とヨシュカを交互に見やり、百合の手を取って歩き出した。

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