変態の恋人は変態らしい。
しくしくしくと、とても悲しそうにガルテリオが泣いていた。
演技ではないようで、清潔な白いレースのハンカチがどんどん湿っていくのを横目に確認して、ゼノンは盛大にため息をついた。
「あなたが泣いてどうするんですか」
「だってゼノン! あたしの、かっわいいユーリが王都へ強制連行されたのよ!?」
「あなたのではありません」
「そうだったわね、フェルディのだわ」
「違います」
多少イラつきながら、ガルテリオの隣で興味津々という態度をみせる一人の女を見た。
つい最近十八になったばかりの少女ともいえる女は、ガルテリオの頭をよしよしと撫で、けれどにやつく顔を我慢できないようだった。
四年越しの恋を実らせたばかりの恋人である。
以前、この男(女?)のどこが良いのかと真剣に問うたところ、とても良い笑顔で泣き顔が好き。もっと泣かせたい。むしろ永遠に泣いて欲しい。ふりふりの衣裳とかきて露出が激しいくせに恥ずかしいことが苦手なのが良い。というか全裸でも良い。
というような変態発言のおかげで、一発で覚えてしまった相手だ。確か名前は・・・と考えたところで、ガルテリオが情けない声を上げた。
「ユーリのウェディングドレスのサイズをお直ししたかったのにいないなんて!」
「焼き捨てるぞ貴様」
おっとつい本音が、と慌てて口に手をあてれば、ガルテリオの恋人の瞳が、星が瞬いた様に輝く。
いけない。この変態女の前ではどんな罵倒も餌になる。
「俺はこれから王都に向かいます」
「でも護衛騎士が何人もついているんでしょ? どうやって浚うのよ」
「・・・どうしてそう、浚うこと前提で話をするんです」
「あんた前科あるじゃない」
生きたまま燃やしたいと思った瞬間、わくわくした表情の女が目に入り冷静になる。
「確かに、俺は一度彼女を浚いました。後悔はしていません」
「今回はどうするの?」
「・・・今回は、バッカスに手伝って頂きます」
「バッカス? 確かにあの子にはピッキングから銃剣の扱いに海図の読み方、弓や毒薬、はては男も女も落とす手管まで教え込んだけど」
「あんたたちはいったい何を教えているんですか!」
「まあまあ。がるちゃんやり過ぎですよ。それより、お姫様の救出のお話ですよね? 具体的にどうやるんですか?」
ついに堪忍袋の緒が切れたゼノンを止めたのは、なんと変態女だった。
「・・・・バッカスに護衛としてついて行ってもらっています。要件が済み次第、彼女は隔離されるでしょうから、その一瞬をついて外に連れ出してもらいます。王宮や神殿の外にさえ出れば、俺が彼女をこの街まで連れ帰ります」
「連れ帰ってどうするんですか?」
「・・・プリーティアでさえなくなれば、俺の妻にできます」
「えー。うちのフェルディが七年越しで待ってるんですけどぉ」
知るか、と一蹴してゼノンは真面目な顔で続けた。
「彼はよその国の女に言い寄られ放題じゃないですか、適当に見繕ってください」
「なによぅ、あんただって遊んでたじゃない。あ、でももう不能になっちゃったんだっけ? あたしが慰めてあげようか?」
「彼女以外に反応しないだけで、不能ではないと証明されておりますので不要なお気遣いは無用です」
「もしかして、お姫様に手を出したんですか? 立場上まずくないですか?」
女が首を傾げると、ゼノンがふっと笑った。
あまりにも獰猛な笑みに、女は一応口を閉ざした。しかし目は口ほどに物を言う。あまりにもキラキラと輝く瞳で見つめられ、今度はゼノンが閉口した。
本当に気色の悪い二人だと内心毒づく。
「じゃあゼノンはこれから王都へ向かうの?」
「ええ。もちろんです」
そう言いながら、首の後ろに細長い暗器を一本。靴の底へコインの形をした小さいナイフを仕込む。縄で縛られた時用のナイフだ。
太ももとふくらはぎには大小のナイフを専用のベルトに装着し、腹には薄く延ばした鉄板を服の下に隠した。腰にいつも身につけていた黒いナイフを忍ばせれば、その上にすっぽりと身体を覆う大きなローブをかぶった。
「あたしが言うのはなんだけど、あんた本当に怪しい奴よね。元騎士っていうか、元暗殺者の方が納得だわ」
しみじみと言われたゼノンは冷静な声で、しかし多少殺気を込めて言い返した。
「元軍人で、元海賊。しかも変態が何を言っているんですか」




