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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
179/203

世界の、どこかへ

「バッカスったら、全然“わたし”の身体を見ても反応しなかったわ。あの子、男として大丈夫なのかしら?」

「・・・あなたの教育のたまものでは?」

「あと、ちょっとは遠慮しなさいよ。痛かったじゃない。こっちは久々だったのよ!?」

「むしろなんで処女じゃないんですか。遠慮は一応しましたよ」

 ゼノンとしても久々だったので遠慮など出来るはずもない。むしろ無能でなかったことにホッとしているのだ。

「三十手前の女に処女求めるな。遠慮も足りないわよ!」

「しました。俺の本気はもっと酷いですよ」

「なにそれ怖い。てゆーか、なんでプロポーズしてくれないのよ」

「・・・して欲しいんですか」

 なんだそのセリフは。可愛いじゃないか。

 むずむずと、何か言いだしそうな口を無理やり閉じると、冷静を装って言った。

「プリーティアでは結婚できないでしょう」

「あんた、わたしともう会えなくていいの」

「俺には今この店があるので、浚うのも難しいんです」

「なんで浚うこと前提なのよ!」

「言っておきますが、フェルディなら絶対浚いますよ」

「だから、あんたたちってどうしてそうなの!」

「こういう俺が好きなんでしょう!?」

 だんだん白熱してきたところで、下の階にいるバッカスから「うるさい!」と怒鳴られた。

「・・・考えましょう。一緒に。あなたを、俺が手に入れるために」

「一応言うけど、多分その時間はないわよ。神殿に戻ったらすぐに王都に向かうことが決まっているの。今度こそ逃げられないわ」

 そしてもう二度と、ヴェステンには戻れないだろう。

「なら、神々に祈ってください」

「あんなのがわたしの願いを都合よく聞いてくれるとでも?」

 絶対無理。と心底嫌そうに言えば、ゼノンも激しく同意した。だが口には出さない。

 そもそも神々相手にあんなの扱いは如何なものか。

「・・・なら、逃げますか」

 ぽつりと零れた言葉は、どこか熱を帯びていた。

 ああそうか、俺はこの女と逃げたいのだ。店は軌道に乗り、とても充実した毎日を送っているくせに。生きてきた中で今が一番平和なくせに。

 それでも惚れた女が手に入らないなら、こんな生活はいらないのだ。

「・・・どこに?」

「とりあえず世界中の、どこかに」

「・・・どうやって?」

「徒歩でも馬でも、なんなら元海賊から船でも奪取しますか?」

 言葉に迷いがなくなったのを確認すると、百合はふっと笑みを漏らした。

「悪くないわね」

 それはとても嬉しそうで、けれど泣き出しそうな顔だった。

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