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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
173/203

子どもたちとの邂逅


 百合が最奥から出る前にオースティンに言われたのは、眠っていた期間は七年間だということと、未だに王都の神殿が諦め悪く狙っているようなので、全てにおいて知らぬ存ぜぬを通せということ。

 また、ゼノンやバッカスは現在ヴェステンに住居を構えていることと、セスがマーレ号で世界一周の旅に出たこと。

 王都で流行っていた百合信仰は未だ終息せず、むしろ酷くなっていること。

 西の神殿内で、かなりの人数が入れ替わっており、現在百合をよく知る人物はほぼ他の神殿に移動させられたこと。特に寒い北の大地に多くが行かされたことだった。

 なので。

「わたくし、何も覚えておりませんの。ゼノンはどこです? わたくしに仕えるよう神々から直接命が下っておりますのに、どうして傍におりませんの?」

 と、ゼノンが神殿を追放される前まで遡って記憶を失ったフリをすることに決めたのだ。

 神々から直接命令を受けたことは、王都の神殿のものたちですら知らない事実だ。言った直後、そんなことが有るはずがないと反論したプリーストだったが、七年も神々の御膝元で眠っていた百合がいう事に嘘はないだろうとも感じていた。

 十分ほどして戻ってきたプリーストは、全身で呼吸しながら席についた。

 どうやら別室に控えている誰かと会話をしてきたようで、ちらちらとメモを見ながら話し始めた。

「よろしいですか、プリーティア。かのものは追放されたのです。そもそも、彼奴は他国より秘密裏に侵入してきた不届きもの。そんな存在があなたの傍にあれるはずがありません!」

「あら、どうして? 神々がわたくしを守る盾として寄越してくださったのに」

「ま、守りならばこのプリーストめにも行えましょう!」

「まあ、あなたが? どうやって? あなたは腕に覚えがある剣士なのですか?」

「そもそも、神殿内から出なければ安全です!」

「神殿から出なければ病に苦しむ人々を救えないわ」

 ぐっとプリーストが黙った。傷ついた人々の話を持ち出されるとどう返していいかわからなくなる。

「・・・・病は終息しました」

「まあ! ではみな、無事なのね。ぜひ会いたいわ!」

「なりません」

「なぜですの?」

「ともかく、なりません」

「・・・やはり病は」

「病は終息したのです!」

「では、子どもたちに会わせて下さいませ」

「ですから神殿から出ないで!」

「ではここで何をせよと? 神々がわたくしをこの世界に呼んだのは、少しでもこの世界が良くなるためによ。わたくしは、病の終息を確認するわ」

「で、では、神殿に招きましょう! それならば良いですね!」

 必死な様子に、これ以上言葉を重ねても神殿から出られないと感じた百合は鷹揚に頷いた。

「よろしいでしょう。全員を呼んでください」

「・・・全員?」

「確認をすると申し上げましたわ」

 その言葉に、プリーストは何かを迷いながら、それでも頷いたのだった。



 子どもの成長は大変早く、正直顔がわかるか自信がなかった。けれど一目彼らを目にした瞬間、ああこの子たちだと確信が持てた。

「プリーティアさま!」

「プリーティアさまだ、本物だ!」

 わっと嬉しそうに駆け寄ってきた少年少女たちは、誰もが感情を抑えられず、喜びを全身で表現していた。

 背もだいぶ伸びた子が数名いて、百合よりも高くなっているため見上げなければならない。

「みなさん、無事でよかったわ。もう苦しくないかしら?」

「うん、プリーティアさまのおかげだよ。俺たちはちょっと前から宿屋や、パン屋、いろんな店で働いてるんだ! でもね、まだ子どもだからって、騎士団長さんの家で文字も習っているんだよ!」

 それは嬉しい報告だった。だが。

「そうなの。何人か足りないけれど、今日は忙しかったのかしら?」

 そう問えば、彼らは悲しげな顔をして首を横に振った。

「ロッティは、去年落馬してしんじゃった。せっかく病気が治ったのに」

「トイはあの年の雪で・・・寒さで死んじゃったの。とっても寒い朝だったわ」

「ネビルはあの雪が終わるころに咳が酷くなって・・・死んじゃった」

「ユノンも・・・」

 病は確かに終息したのだ。わずかな犠牲者を伴って。

「そう・・・傍に居てあげられなくてごめんなさいね」

 そっと彼らを抱きしめると、しくしくと泣き始めた子どもたちを宥めるのに時間がかかった。最後の一人が泣きやむまで、誰も口を開けなかった。

 長いこと話をして、月が昇る頃子どもたちは帰って行った。

「プリーティア、おわかりですね? もう治療は必要ありません」

 どうだと言わんばかりに胸を張るプリーストに、百合は冷めた目を向ける。その凍えるほど冷たい瞳に、ごくりと喉を嚥下させた。

「彼らには癒しが必要ですわ。心の傷は未だ癒えていない様子。この七年間いったい何をなさっていたの?」

 まさか責められると思わなかった彼は、一瞬ぽかんと口をあけ、しかし言い訳も見つからなかったのか視線を逸らした。

「そ、それは・・・」

「情けない。それでもあなたはプリーストですか」

 そしてもう一度、彼らには癒しが必要だと訴えた。

「わたくしは街に下りますわ。準備をなさって」

「なりません! そんな時間があるのなら王都へっ」

 黒曜石の瞳がプリーストを射抜いた。まるで見えない鎖に拘束されたような錯覚に陥りながら、ぱくぱくと口で呼吸する。

「明日の朝、一番で下ります。よろしいわね?」

 ついにプリーストは頷いてしまったのだった。

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