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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
170/203

それが騎士団長として誤った判断だとしても


 

 西のエメランティス神殿は山中にある白亜の神殿は、ヴェステンが誇る美しい神殿だ。

 百合たちの活躍は、すぐにヴェステンにも知れ渡った。

 喜ぶ人々。英雄の帰りを今か、今かと待っていたが、彼らは戻らない。

 一月が経ち、二月が経ち、三月が経つ頃。雪は完全になくなり春が終わった。

 その頃には人々が騎士団に詰めかける日々が続き、騎士団の方でも国に確認を行っていた。

 そして判明したのは、王立騎士団が世界を救ったとされていること。ゼノンや百合、そしてバッカスの活躍はどこにもなかったことにされていること。ゼノンはバッカス誘拐容疑で追われていることだった。ゼノンの手助けをしたとされる元海賊も同じように追われている。

 もちろん、事実無根だと誰もが信じた。

「それは出来ません、どうぞお帰り下さい」

 老いた神殿長が緩やかに首を振る。

 街の人々は毎日のように神殿に足を運び、百合の安否を気にしていたが、神殿長は一般人を神殿に入れることを是としなかった。

 百合が神殿に戻ったことはすでに周知の事実だったが、わけあって国には知らせていない。神殿長が騎士団長のオースティン・ザイルから呼び出されることも週に三回に増えた。

「神殿長、彼女はまだ目覚めないのか」

「ザイル団長。我々はただ待つほかありません。先日も申し上げたではありませんか」

 悲しげに、そして疲れ切った様子で言う神殿長に、オースティンも罪悪感がつのる。だが街の人々からの要望で、神殿に居るはずの百合を一目見たいという願いを無視することも出来ないのだ。

 国王の勅命により、もうすぐ新たな王立騎士たちが到着する。それまでにオースティンとしても安否を確かめておきたかった。

「わかっているだろうが、来週にも王都から別の騎士が派遣される。いつまでも隠しておける状況ではないのだ」

「団長、我々は隠しているわけではないのです。ただ、あそこは危険なので入らないで欲しいのです」

 いつもこの繰り返しだった。

 何がどう危険なのか、神殿長は具体的なことは言わない。

「私でも駄目だというのか」

「・・・命の保証が出来ません。あなたに何かあれば、神殿が責をおわれます」

 オースティンがグッと握り拳を作る。

 ただ待つのは辛かった。出来るならば、許されるのならば、己も彼らと同行したかった。騎士でもなく、責任もない立場の彼らが命を懸けて救った世界。プリーティアはこの世界の人間ですらなかったのに、危険に飛び込んでくれた。

 オースティンはそんな彼らを手助けすることも出来なかった。ただ時間を稼ぎ、王立騎士の介入を少しでも遅らせることしかできない。

 それもここまでだ。

 あと数日で勅命を受けた騎士が乗り込んでくる。

 秘密裏に帰国したプリーティアを捕えるために。

「彼女は、本当に無事なのか」

「無事です。ですが目を覚ましません」

「・・・あちらの騎士が来たら、問答無用で連れて行かれるぞ。そうなれば街の者は悲しむ」

 いいえ、と神殿長は首を横に振った。

「それは不可能です」

「どういう事だ? 言えないのなら、せめて彼女に会わせてくれ」

 年老いた神殿長の瞳は深く、悲しげな色をたたえていた。その眼がオースティンに向けられる。

「本当に、危険ですよ。それでも確かめますか」

 オースティンはしばらく言葉に迷い、けれどふと笑みを浮かべて言った。

「・・・副団長に、全ての権利を一時譲渡する。私の命をかけよう」

 彼女に会って街は変わった。オースティンも変わった。騎士団も変わった。

 変えてくれた恩がある。救ってくれた恩がある。

 それならば今度こそ、オースティンは彼女のために命を懸けよう。それが騎士団長として誤った判断だとしても。

 その熱意と決意が伝わったのか、神殿長は深く細いため息をつきながら、それでもどこかホッとしたような笑みを浮かべて頷いたのだった。




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