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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
166/203

正論は無駄な努力


 時は少し遡る。

 ガルテリオと騎士、フェルディとセスはそれぞれ城内をくまなく探り、ゼノンと元部下たちは城下へ出て百合たちと合流を果たした。

「かつらは、どうしましたか」

 ゼノンの絶対零度の視線が突き刺さり、百合はむっとして押し黙った。

 街に入ったまでは良かったのだ。問題はその先だった。何故か百合たち一行は街の人々に囲まれ、外の状況をしつこく聞かれた。

 誰もが壁の外を恐れて出られなかったが、壁の外に生きる友人や親族たちを心配していたのだ。もみくちゃにされた百合は、あっけなくかつらが取れ、見慣れない黒髪を人々にさらしてしまった。

 衝撃を受けた様に静まり返る人々。痛い程の静寂。しばらくして、誰かが言った。

「黒い神さまだ」

「白い神さまを倒しに来た」

 口々に言うと、彼らは膝を折った。

「黒き神よ、どうか我らをお助け下さい」

「黒き神よ、どうか我らをお救い下さい」

 頭が痛くなる思いだったが、ある意味これは好機だ。百合はこれを利用することにした。

「わたくしは神々ではありません。けれど、神々より遣わされました」

 優雅に微笑む姿は、どう見てもただの街娘には見えない優雅さがあった。身につけたワンピースは質素でありふれたものだが、それをものともしない洗練された空気を身にまとっていた。

「わたくしはこの世界を救うために来たのです。今、世界は嘆き悲しんでいる。この先の白きものは、あってはならぬ悪です」

 かなり誇張が入っているが、人々の心は簡単に掌握で来た。

「わたしの息子が城から戻らないのです」

「わしの孫も城からもどらないんです」

「家族が心配です」

「街の外のいとこたちはどうなったんですか」

「助けて下さい、今はなんとか食べるものもギリギリありますが、もうもたないのです」

 我先にと助けを求める声に、百合はおっとりとほほ笑んだ。

「もうすぐ事態は大きく変わるでしょう。わたくしはあの城にいる白きものと話がしたい。どうにかできますか?」

 それには近くにいた大柄な男が答えた。左足に大きな包帯をして、杖を突いた若い男だ。

「城の兵に知り合いがいます。手引きさせましょう」

 すがるような目で、百合を見つめていた。

「頼みます」

 そうして百合たちは協力者を得たのだった。

 という話をすれば、案の定ゼノンが深い、それは深いため息をついた。

「どうしてあなたは大人しくしていられないのですか。新たな神が現れたと城内ではすでに噂になっていますよ」

「いやだわゼノン、わたくしは普通にしていただけよ。それに、わたくしは神であることを否定したわ。勝手にそう言っているのは街の人々よ」

 こんな状況なのにソファで足を組んでいる姿を見れば、誰だって只人とは思うまい。ゼノンはまたため息をつきそうになり、根性でそれを飲み込んだ。

 百合相手に正論は無駄な努力というものだ。

「それで、この状況ですか」

 街の人々の好意で、百合たち一行は比較的大きな屋敷に匿われることとなった。現在は情勢がかなり頻拍しているはずなのに、十分な食料と衣服まで用意されていた。

「城へ乗り込むのは三日後以降になりそうよ。みんなにもそう伝えてちょうだい」

 優雅にカップを傾ける姿にあせりはない。

「・・・バッカスの精神がそろそろ限界です。彼の傍には王立騎士団のメンバーもいますが、本気で城に乗りこむつもりですか?」

「あら、そういえばそんなのもいたわね。そうねえ、バッカスは心配だわ」

 空になったカップを興味なさげにひらひら揺らすと、何かに気付いた様に立ち上がった。

「ところで、彼ら・・・わたくしが来ていることは」

「もちろんご存知です」

 ちっと盛大な舌打ちが響いた。

 さて、そんな百合とゼノンは、三日後城に乗り込むことになるのだが、それまでは地道に情報収集を望んだゼノンが、自らの遺志で百合のもとを離れたのだった。



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